野菜のおいしさの秘密は“この子”たち!?
翌日、この驚くべき野菜料理を支えている農家の一つ、北杜市の「こまち農園」を切り盛りされている八木千恵子さんに、野菜作りについていろいろうかがった。
こまち農園は、完全無農薬有機栽培で野菜を作っている。昨年までは、この広い農園を1人でやっていたという八木さんの、農業に至るまでの経緯がすごい。
右:こまち農園の中を悠々と歩くのは烏骨鶏たち。
元々、この畑を取得したのは八木さんのお父さん。アレルギー性鼻炎があったことから、経営していた会社をたたんで、水が豊かで空気もきれいな山梨に「田舎を作る」という一言で、神奈川から突然の引越し。
ご両親は高齢で車の運転が不自由になったことから、一度は東京に転居するものの、家から一歩も出ず、テレビばかりを観る生活にいたたまれず、娘の八木さんも一緒にこの地に戻ることに。しかし、職がなかなか見つからず、ハローワークで“農業大学校生徒募集”の告知を見て、10カ月の就学後に農業を始めたという。
鎌を使って切り進むのに、1人後ろに進んで行って「切るべき草を踏んでどうするの?」と叱られるところから始めて、今や全部で1町歩(約3000坪)で、200種類の野菜を息子さんと2人で(昨年まではたった1人で)、毎日収穫、切り盛りしている。
「星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳」が出来て数年後、ピーマン通りでの朝市に出店をしていて、今や日本には種がないという、珍しいミラノ大根やハーブミックスを売っていたことから、シェフに声を掛けられて、レストランに出荷をするようになったのだそう。
一緒にビニールハウスに入ると「この四角豆、しっかり実をつけて野菜がうれしそうでしょ」「うちの野菜は言うことを聞いてくれるの。100本ズッキーニが必要なのよと声をかけると本当に期日に実がなるの」と誇らしげに語る八木さん。
右:手のひらにのせているのは、育てるのはこれが初だというヒヨコ豆。
「40年間、化学肥料を使ってないから“うちの子”は、トマトでも色も味もひと味違うわよ」と野菜を“この子”と愛情深げに呼ぶ八木さん。いかに有機の畑で虫や天候と戦いながら、野菜に手間をかけて育てているかが窺えるのだった。
2016.10.22(土)
文=小野アムスデン道子
撮影=深野未季