鯉こくは、鯉の清廉でたくましい滋味が、
九州特有の甘い麦味噌に溶け込む

 鯉といえば臭みがあるので酢みそでごまかして食べるとか、氷水で洗いすぎて、味気がない、というイメージをお持ちの方もおられよう。しかし初めて訪れる人は、有田のこの2店で「鯉の洗い」が登場すると、まずその美しい姿に感嘆の声を上げる。

濃いピンクと赤色に輝き、縁をくるりと丸め、円形に盛られた龍泉荘の「鯉のあらい」。

 濃いピンクと赤色に輝き、縁をくるりと丸め、円形に盛られた姿は、ため息がつくほど美しい。

 サク。サクサクッ。赤と薄赤の身に光が抜け、冷たい鯉の刺身を噛みしだく。ほのかな甘さは、途切れることなく、噛むほどにゆるゆると広がっていく。

ほのかな甘さは、途切れることなく、噛むほどにゆるゆると広がっていく。龍水亭の「鯉のあらい」。

 名水百選の川で育った鯉は、そのミネラルの恩恵を受けて、滋味を膨らます。よく出会う鯉の洗いのような、不抜けた味ではなく、さっきまで生きていたぞと叫ぶ、命の甘みがあって、もう、どうにも箸が止らないのである。シコシコと弾む皮や、あっさりとした肝もぜひ合わせて食べられたい。

 「龍水亭」では、丸く深みのある「鯉こく」もおすすめである。鯉こくは、鯉の清廉でたくましい滋味が、九州特有の甘い麦味噌に溶け込んで、味が深く丸い。

鯉の清廉でたくましい滋味が、九州特有の甘い麦味噌に溶け込んだ、龍水亭の「鯉こく」。

 ここに少し柚子味噌を落として飲めば、猛烈に酒が、ご飯が恋しくなる。

景色を楽しみながらいただく龍泉荘の「鯉こく」。

 一方「龍泉荘」には、渓谷の雄大な自然を望むモダンなカフェ「木漏れ日」も併設されており、ここで焼くパン類は県外からも購入者がやってくる。

鯉の腹身を使った龍泉荘の「鯉のユッケ」。

 数々の名陶器を見て目を養い、爽やかな自然の中で鯉を食べる旅、これから緑が美しくなる季節に、出かけられてはいかがですか?

料亭 龍泉荘
所在地 佐賀県西松浦郡有田町広瀬山甲2373-4
電話番号 0955-46-3617
営業時間 11:00~21:30(L.O. 19:45)
定休日 第2木曜日・年末(12月30日・31日)
http://www.ryusenso.jp/

龍水亭
所在地 佐賀県西松浦郡有田町広瀬山甲2286-22
電話番号 0955-46-2155
営業時間 11:00~15:30(L.O. 14:30) 16:30~21:00(L.O. 20:00)
定休日 水曜(祝日の場合は営業)
http://ryusuitei.jp/

<有田>

 佐賀県の西部に位置する有田町は面積約65.8平方キロメートル、人口はおよそ2万人。有田焼の産地として知られる町で、17世紀初頭に朝鮮人陶工・李参平らによって陶石が発見され、日本で 初めての磁器が焼かれて以来、佐賀藩のもとで磁器生産が本格化した。現在も歴史的価値の高い建物が数多く残り、1991年に国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている。その一方、川魚料理で有名で、なかでも鯉料理は上品な味として知られている。

マッキー牧元(まっきー・まきもと)
1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。

 

Column

マッキー牧元の「いい旅には必ずうまいものあり」

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く「タベアルキスト」のマッキー牧元さんが、旅の中で出会った美味をご紹介。ガイドブックには載っていない口コミ情報が満載です。

2016.09.29(木)
文・撮影=マッキー牧元