小説からノンフィクション、自伝まで、美しい女性主人公たちに共通することとは?
ライター/ブックカウンセラーの三浦天紗子さんに、おすすめの6冊を伺いました。
» 第2回 中里恒子『時雨の記』
» 第3回 幸田文『きもの』
» 第4回 シモーナ・スパラコ『誰も知らないわたしたちのこと』
» 第5回 アゴタ・クリストフ『文盲 アゴタ・クリストフ自伝』
» 第6回 姫野カオルコ『リアル・シンデレラ』
自足の達人は例外なく「別嬪さん」
最近は耳慣れない言葉になってしまったかもしれませんが、私は図抜けた美女を見ると、「別嬪さんですね」と声をかけたくなります。古くは、格別な品という意味で「別品」とも書いたことからもわかりますが、目鼻立ちがきれいというだけでは成り立たないのが“別嬪さん”。満ち足りた佇まいを含んでいてこそ体現できる、真の女性美だと思うのです。
本の中の、凜として自適に生きる主人公たちが教えてくれるのは、無いものねだりをしない、人の気品とでもいうべきエッセンスです。読んでいると、ていねいな暮らし方や、他者を尊重する人づき合いの作法、自分の手の中にある幸せを慈しむ心根の貴さを思い出すはずです。満たされず物欲しげな人は絶対にきれいに見えないものですが、実際問題、自分で自分を幸せにできる自足の達人は例外なく、別嬪さんです。
一冊の本や温かな家庭が彼女の支えだった
『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』
激動の時代、女性が希望を失わないための支えになる物語を届けたいと『赤毛のアン』を訳した村岡花子。許されない恋を実らせ、結ばれた夫は、花子の生き方の、最良の理解者でもあった。大きな仕事をなしえたのは、家族の幸福という礎あってのことだったろう。心温まる評伝。
『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』
村岡恵理 新潮文庫 750円
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●今回、お話を伺ったのは……
三浦天紗子(みうら あさこ)さん
ライター/ブックカウンセラー。ライター歴は四半世紀超え。現在は書評や人物インタビューを、本誌ほか『anan』『小説宝石』、Webなどに寄稿。4月より『サンデー毎日』でブックレビューを隔週連載。
2016.03.19(土)
text=Asako Miura
photograph=Tamon Matsuzono