アイスランドで生まれて初めて見た感動の光景は……

 その後はすぐ近くにあるスカイラグーンへ移動した。アイスランドは言わずと知れた温泉天国。その中でも2021年にできたばかりの比較的新しい施設で、観光客に人気のスパだという。入り口でチケットを購入すると、ロッカーの施錠やドリンクの購入ができるゴム製のリストバンドを渡される。早速水着に着替えて、露天風呂に入った。

 青い空と大西洋に、そのまま繋がっているような感覚になる。老若男女、たくさんの人がグラスを傾けながら、のんびりと楽しそうに過ごしていた。湯船に浸かったままバーに行って、カクテルをオーダーする。海外では全てが自己責任なので、湯船に浸かりながらお酒を楽しむことができるところが嬉しい。

 十分堪能できたと思ったところで、サウナに移動する。広いサウナも、目の前は海。その後は水風呂ではなくミストを浴びながら外気浴をした。続いて、ボディースクラブを塗って、スチームバスへ。ものすごい量のスチームで目の前が真っ白になったけれど、じんわり暖かく気持ち良い。最後にシャワーでスクラブを落とすと、肌がすべすべになっていた。

 ホテルに向かおうと東に車を走らせる。大草原が現れ、その中に羊達が点々としている。真っ白な煙が立ち上っているところが、地熱発電所だった。山々の間を抜けていくと、大きな湖がある。海から離れると、どんどん景色が変わっていった。

 途中、また急に雲が広がって、ポツポツと雨が降り出した時、国立公園内にある溶岩地帯を通った。全く人がいないので、そのまま素通りしてしまいそうだったけれど、ナビで見てみると、大陸プレートの境界が地上に露出している有名な場所らしい。せっかくだからと車を停めて少し歩くと、一目でここだとわかる割れ目があった。ユーラシア大陸と北アメリカ大陸は、年間約2センチずつ離れているという。地球の内部でマグマが噴き上がり、今でも新しい陸地を少しずつ作り続けている。普段そんなことを感じることはないけれど、この谷の形を見るとしっくりときた。地球の鼓動が、しっかり刻まれている。

「見て! 見て!」

 後ろでみさとちゃんが叫んでいる。何が起きたのかと思って振り向くと、さっきまで何もなかったはずの谷の先に、色のついた光が浮かんでいた。

「え! え! すごいー!!」

 あまりの興奮に、自分で思っているよりも大きな声が出てしまう。まさに、虹がかかる瞬間だった。大地に近いところから出現した橋は、そのままカーブを描きながら西の方向へ延びていく。同時に、雲がものすごい速さで流れ、また青空が見えてきた。そのまま橋は反対側の大地まで到達し、完璧な虹が出来上がった。さっきまでチラホラいた観光客も全ていなくなり、私達だけが目撃した景色。キャーキャー叫びながら写真や動画を撮り続ける。15分ほど経つと少しずつ色が薄くなり、消えてしまった。生まれて初めて見た景色に、大満足の初日だった。

 夜になってスキンケアをしようと鏡の前に立った時、メイク落としを忘れてきたことに気がついた。けれど、女同士なら大体のものは貸し借りできる。みさとちゃんに使わせてほしいと頼むと、申し訳なさそうに答えた。

「私、洗顔料とオールインワンしか持ってなくて……」

 女性であれば、これがどれだけすごいことかわかるだろう。彼女は普段からサウナや銭湯での仕事が多いので、いつもノーメイク。撮影でもヘアメイクをつけないことがほとんどだとか。それでこの美しさと透明感! 驚いてしまう。海外旅行でも、化粧水や美容液、乳液等の成分がひとつになったオールインワンクリームを愛用していて、他には何も持って行かないらしい。

 言われてみれば、1週間のヨーロッパ旅行にしては荷物が異様に少なく、スーツケースの重さが私のものとは全然違った。この時間、もうほとんどの店は閉まっている。あるものでなんとかするしかない。全身に使えるオイルを駆使してなんとか汚れを浮かし、もう一度ホテルのサウナに入って汗をかき、洗顔料で落とすことに成功した。なんだか、旅の基本を思い出したような気がする。

「最近の私は、荷物が多すぎたかもしれないなぁ」

 そんな反省をしつつ、ベッドに入るとすぐに眠ってしまった。

 そこから5日間、ひたすら車を走らせた。ダイナミックな滝や、真っ黒な砂浜。たった数時間走れば、火山も氷河も見ることができる。地球をギュッと凝縮したような島で、羊のように自由に放浪し続けた。

 草原の中に突然現れる野天風呂を見つけて、立ち寄った日もあった。簡易な更衣室にはロッカーなどなく、服も貴重品もそのまま無防備に置かれている。これも治安が良いという証拠。私達も水着になり、そのまま荷物を置いて、無色透明でトロトロしたお湯の中に滑り込んだ。

 滑らかで心地よく、熱すぎない。流れていく雲を見上げながら、大地に埋め込まれているような気分になる。なんだか嘘のようだった。普段の暮らしとは、何もかもが違いすぎる。

 世界最大の温泉施設といわれる、ブルーラグーンにも行った。シリカを多く含む青みがかった湯は、想像していた以上に美しかった。火山が作り出した大地で、様々な人種の人達が一緒に湯に浸かっている。平和で優しい空気が満ちていて離れるのが惜しくなり、何度もビールをおかわりしながら、手の指がシワシワになるまでお喋りを続けた。

 晴れたと思ったら急に土砂降りになり、カーブするたびに新しい景色に出会った。全てが一瞬だからこそ愛おしく、退屈する暇がない。雄大な自然に圧倒され続けた旅だった。ここにいると、地球を近くに感じることができる。

「都会でしか暮らしたことのない私の方が、嘘なのかもしれない」

 そんなことを考えながら、またコンクリートジャングルに戻っていく。こうやって生きるのが、好きなのかもしれない。

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