1800年代後半のジャポニスムから現在にいたるまで、古今、世界を刺激する“日本の美”は、日常の中で醸成されてきた。

 空間を仕切る衝立や襖、道具やちり紙にまで宿る美意識は、芸術と用の美を峻別することのない独自の感性によって成り立ってきたのだ。

 時を超え美を継承する職人たちの手業を求めて京都を旅する。

 今、世界のクリエイターたちは日本の伝統文化に熱い視線を送っている。その動きに応え、普遍の価値を問い続ける京都の2つの工房に美意識を聞いた。変わらぬ姿勢と変えるべきスタイル、その境界はどこにあるのだろうか。


12代目が描く西陣織の未来地図

 京都の「細尾(HOSOO)」といえば着物好きでなくともその名を知る人が多い老舗中の老舗だが、創業300年を超える西陣織の雄が今どんな世界を眺めているかを知れば印象はまた変わるのではないだろうか。

 八寸から九寸、つまり帯幅の織物が当たり前だったこの世界で初めて1.5メートル幅の西陣織を編み出し、たちまちのうちにそれらは有名な海外メゾンから熱い注目を集めるように。着物の素材だった西陣織は、ドレスやバッグの布地としても用いられることとなった。

 さらには壁紙やソファの生地としても採用され、ラグジュアリーホテルやファインダイニングでも豪奢な西陣織が空間を演出する情景が見られるようにもなった。

 しかし、それらは“西陣織レボリューション”のまだほんの序の口だ。12代目を継ぐ当主の細尾真孝氏が手を組む相手の顔ぶれを見れば、音楽プロデューサー、プログラマー、数学者、農業従事者と、あまりにもバラエティ豊か。

 取材に訪れたこの日は「HOSOO FLAGSHIP STORE」2階のギャラリーで「音と織物の融合」と題されたドイツ人アーティストとの協業による企画展が開催されていた。作品の一つが電子音楽のソノグラム(電子音楽の楽譜の役割を果たすエコー画像)が織られた帯。その上を光が通ることで奏でられる音が会場を包み込んでいた。

 「着物愛が昂じてオタクの域にいる私ですが、昔ながらの伝統を守り続るだけとは考えていません」と細尾氏は語る。

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。