最高の素材メゾンをただひたすら目指して
「HOSOO」にとっての海外との繋がり、とくにフランスとはシルクの存在があった。京都とパリが姉妹都市となった1958年から遡ること100年、1858年の日仏修好通商条約締結。以降、日本からフランスへの主要輸出品は生糸で、19世紀後半には蚕卵も重要だった。
「約1200年の歴史を持つ西陣織は、東京遷都や洋装文化の始まりがあり、明治以降一度危機を迎えています。状況を打破するために日本から派遣された職人が持ち帰ったものがジャカード織の技術でした。西陣織は伝統の織物と思う方は多いのですが、実は変革に次ぐ変革を経て今がある。逆に、カウンターカルチャーとして存在する気概がないと、伝統文化の奥にある本質的な美意識は残らないと思います」(細尾氏)
変革の必要性と、それにより滅びてしまうものを守るか、訣別するか。インテリアや建築への挑戦、ファッション業界やコスメ業界とのコラボレーション、さらにはアートとの協業など、傍目からは忙しく見える12代目の日常だが、「歴代の先達たちも様々な挑戦を積み重ねてきたのだから」と気負いはない様子だ。
「曽祖父くらいの代からは多くの資料や画像データも残されていますが、明治以前となると、残された作品が私に家業を伝えてくれる教科書です。神社仏閣にお納めした屏風や、面白いところでは七代目市川團十郎丈のために作った『勧進帳』の衣装。武蔵坊弁慶の袴の見本が残されていますが、この意匠の大胆さ、美意識には今も惚れ惚れします」(細尾氏)
熱っぽく語る細尾氏だが、生まれた時から決まった道を歩いてきたというわけではない。音楽の道に進み、その後はジュエリー界を歩んだ時代もあった細尾氏がようやく家業に入ろうと思ったのは、父である先代が海外への扉を開く姿を見た頃からだ。悪戦苦闘する様を目の当たりにしてそこに身を投じる決心がついたというのは、若さからではなく挑戦好きというDNAゆえかもしれない。
そんな細尾氏が率いるHOSOOは日々様々な変革に取り組んでいるが、最も大掛かりなプロジェクトが養蚕農業の復興だ。最盛期に比べると養蚕農家の数は1万分の1未満の崩壊状況だというが、「最高の素材メゾンになる」という志のもと、昨年、京丹後の広大な土地を得て1万本を超える桑の木を植樹した。順調にいけば4、5年の後には新たな国産生糸が誕生する見込みだという。
「化学繊維や化学染料、労働力低下に押され、かつて絹生産先進国だった日本は完全にその地位を失いました。けれど、時代は移り、新たな思想でもう一度産業を興せるかもしれない」(細尾氏)
歴史の中で育まれてきた用の美、織物工藝は、破壊と守りを幾度も繰り返すことでその本質を定義し続けている。
HOSOO FLAGSHIP STORE(ホソオ・フラッグシップストア)
所在地 京都府京都市中京区柿本町412
電話番号 075-221-8888
営業時間 10:30~18:00
定休日 祝日
https://hosoo.co.jp/
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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。
