シカのローストは真骨頂!
このために高知に飛びたくなる
メインはシカのシンプルロースト。赤身中の赤身、モモ肉をまさにシンプルに焼いたもの。シンプルだからこそ難しいわけだが、この断面のツヤ、深い色あい、みずみずしさ……なんて美しいのでしょう。つけ合わせも大いにシンプルで、この日はかぼちゃのピューレときのこのみ。一同、しばし見とれつつ、赤ワインを追加する。
焼き方はなにしろ名人芸。それと同時に感動するのがシカ肉自体のポテンシャル! 高知の豊かな森でおいしい餌をもりもりと食べ、そして奥深い山を駆け回っているシカは、これまで食べたどんなシカよりも力強い、野生の筋肉の味がした。ナイフで切るときに刃にまとわりつくような質感は、口に入っても同じこと。そして、味が弾けるように元気、そして清々しい。
「なんでこんなにおいしいの~」と悶えていると、「西村さんは目利きなんだよ」と隣からアドバイスが飛んできた(高知では割と隣の席から普通に話しかけてくる)。罠ではなく、銃で撃ったものしか使わず、さらに肉質を見極めているからこそ、なのだそう。高知のシカ自体がそもそもおいしいのに加えて、狩猟法などを選んでいるのがヌックスのスペシャルなところらしい。
「これが飛行機に乗っても食べに行けと言われた味か~」と感激していると、「まだお腹に余裕があるなら追加でなにかいかが?」と西村さん。炭水化物欲を微妙に持て余していたので、「イノシシチャウダーのクリーミーマカロニグラタン」と「シカとイノシシの煮込みうどん」とダブル注文(お隣さんが食べていたものがあまりにもおいしそうで……)。
イノシシのグラタンは一見家庭的なペンネグラタンなのだが、イノシシのだしが効き、肉もゴロゴロ。なんて贅沢な! さらに素晴らしかったのがうどんで、「ジビエ鍋の〆」みたいなものだった。クリアなスープにシカとイノシシの肉、油揚げや野菜、そしておうどん。ほっとする味で、みるみる広がるジビエの旨みをうどんに絡めとる。21時を過ぎないと注文できないお夜食メニューなので、次回来るときもスタートは遅めの設定にしよう、と心に誓った。
デザートは大好物のパブロヴァをチョイス。ニュージーランドで働いていた西村さんらしいメニュー。高知は肉も野菜も、そしてフルーツもおいしいんだよな……。トップにのっていたのは仏手柑……か?(記憶がうっすら) 移住者が多いのも大いに頷ける食材王国っぷりを見せつけられたコースの締めくくりであった。
というわけで、高知のジビエを堪能したヌックスキッチン。次回は、またもや頼まれてもいないのに高知のおいしい情報を披露したいと思います!
ヌックスキッチン
所在地 高知県高知市本町3-2-48
電話番号 080-3920-7471
※営業は木・金・土曜のみ
[2015年10月末来訪]
北條芽以(ほうじょう めい)
神奈川県鎌倉市生まれ。情報誌編集者を経てフリーライター、料理本の編纂を行う。好きなのは炭水化物(特にごはん)とお肉の組み合わせ。お酒はあまり飲めない。「左手にごはん茶碗を!」
Column
北條芽以のLOVEレストラン
美味なるLOVEなひと皿を求めてレストランに通う日々。
著者が偏愛する、この季節、このお店のLOVEはいったい何? あなたの次のレストラン選びに参考になること間違いなし!
2015.12.20(日)
文・撮影=北條芽以