毎月のように通うことになった軽井沢
別荘の契約方法には夏だけのシーズン貸しもありますが、選んだのは年間契約の物件。家を借りる目的は「リスクを分散させること」であり、東京で災害などがあって身ひとつで来たとしてもすぐに仕事と生活が再開できることが大切だったから。それぞれの仕事部屋と寝室が必要なので、広さは3LDK。中軽井沢駅から車で10分ほどの別荘地の中にあり、深い緑に囲まれた静かな環境です。
生活に必要なものは、ゼロから揃えました。ダイニングテーブル、ベッド、ソファなどの大型家具、洗濯機や冷蔵庫などの電化製品、パソコン、プリンター、絵の具類など仕事道具。それ以外にも食器や犬のケージ、生活雑貨や日用品……。暮らしていくには本当に細々としたものが多岐にわたり必要なんですよね。洋服や下着類もある程度の数は、東京から移動させておきました。とにかく時間もお金もかかったけれど、おかげで、今は小さめのスーツケースにメイク用品や仕事の資料などを詰め、冷蔵庫内の食品を保冷バッグに移し、犬をキャリーバッグに入れ30分後には東京を出発。なにかの時にはすぐに移動できるという安心感はとても大きなものだし、私たちには必要な選択だったのです。
秋の紅葉も美しく観光客のいない静かな冬も過ごしやすい
2011年の夏からスタートした東京・軽井沢の二拠点生活。当初は夏以外はあまり来ないかな……なんて思っていましたが、暮らしてみると秋の紅葉も美しく観光客のいない静かな冬も過ごしやすく、毎月のように通うことになりました。
こうして東京と軽井沢を行ったり来たりする生活にすっかり慣れて楽しんでいたのですが、今年の5月からは新たに福井の越前町にも家を借りました。
福井にはもともと知り合いが多くて年に何回か遊びに行っていましたが、昨年から福井市内にある友人の工房を借りて作品を制作するようになり、それをもっとじっくり腰を据えてやってみたいという思いが大きくなってきたんです。
すでに二拠点生活を送っていたので、新たに拠点が増えることについてのハードルは低くなっていました。ある程度、必要なものを揃えておけば、気軽に移動できるとわかっていたので。そして知人の紹介でしばらく空き家だった物件をお借りすることができ、三拠点生活がスタートしたのです。
松尾たいこ(まつお・たいこ)
アーティスト/イラストレーター。広島県呉市生まれ。1995年、11年間勤めた地元の自動車会社を辞め32歳で上京。セツ・モード・セミナーに入学、1998年からイラストレーターに転身。第16回ザ・チョイス年度賞鈴木成一賞受賞。これまで300冊近い本の表紙イラストを担当。横山秀夫『クライマーズ・ハイ』、カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』、「奇想コレクション」シリーズなど。著作に、江國香織との共著『ふりむく』、角田光代との共著『Presents』『なくしたものたちの国』がある。イラストエッセイ『出雲IZUMOで幸せ結び』『古事記ゆる神様100図鑑』を発表するなど、神社にまつわる仕事も多い。2013年には初エッセイ『東京おとな日和』を出し、ファッションやインテリア、そのライフスタイル全般にファンが広がる。CM、広告の仕事に加え、六本木ヒルズのグッズパッケージを多く手がける。2014年からは福井にて「千年陶画」プロジェクトスタート。現在、東京・軽井沢・福井の三拠点生活中。公式サイト http://taikomatsuo.jimdo.com/
Column
松尾たいこの三拠点ミニマルライフ
一カ月に三都市を移動、旅するように暮らすイラストレーターの松尾たいこさんがマルチハビテーション(多拠点生活)の楽しみをつづります。
2015.10.17(土)
文・撮影=松尾たいこ