【KEY WORD:AIIB】

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)が話題になっています。

 この話はたいへんわかりにくいのですが、かみくだいて説明してみましょう。AIIBというのは、中国が中心になってつくられる金融機関で、アジアのさまざまなインフラ整備を支援するためのお金を出しあいましょうというものです。東南アジアなどはまだインフラが未発達なので、ここをきちんとやっていこうというのはとても良い話。賛否をめぐって議論になるはずがないのですが、実はその背景にはアメリカと中国の対立があります。

 第二次世界大戦のあとはずっと、アメリカが中心になって世界の金融がコントロールされてきました。その中心にあるのは、金融の安定を司る国際通貨基金(IMF)と、途上国などに資金を融通する世界銀行というふたつの組織でした。どちらも本部はアメリカにあり、世界銀行の総裁は必ずアメリカから出すことが暗黙の了解になっているなど、アメリカが国際金融秩序の中核になっていたんですね。

 アジアの開発援助への資金の融通も、この世界秩序に組み込まれているアジア開発銀行(ADB)という組織がすでにあります。そしてADBの総裁は、ずっと日本人が務めてきました。つまりアジアの投資はアメリカと日本が秩序を作ってきたということなのです。

 ところがそこに、中国のAIIBという新しい開発銀行が登場してきた。これはアメリカや日本にとっては、既存の世界秩序への挑戦なのでは? という疑念を生む存在になるのは当然です。中国は日本を抜いて世界第2位の経済大国になっていますし、国際社会でも存在感をどんどん強めています。南シナ海や尖閣ではフィリピンやベトナム、日本などと領土紛争が起き、軍事的にも危険な存在と見られるようになっています。

 そもそも中国は古代から中世まで一貫して、世界最大ともいえる巨大な帝国でした。19世紀から20世紀の欧米列強の時代に没落し、共産主義で経済を収縮させていましたが、かつての強大な中華文明がいま再興しつつある局面であるとも言えるでしょう。

イギリスやドイツなどヨーロッパ諸国が参加表明

 AIIBは中国が設立し、当初参加を表明しているのは韓国や東南アジアなどのアジア圏の国だけでした。それだけならアメリカにとっては地域的な存在として黙殺しても良かったのでしょうが、なんと3月になってイギリスが参加表明したんですね。この背景にはイギリスがEU(欧州連合)を離脱する可能性が出てきているという状況があり、もしそうなった場合に経済成長の新たなテコとして中国市場をうまく利用したいというイギリスの目論見もあるようです。

 しかしこのイギリスの参加表明が引き金になり、ドイツ、フランス、イタリアなどのヨーロッパ諸国が雪崩を打ってAIIB陣営に加わるという驚くべき事態になってしまったんですね。ヨーロッパにとっても中国は魅力的な市場であり、中国に寄っていくのは当然ということなのでしょう。

 アメリカが世界の警察から撤退しつつある状況の中で、これまでのような一極集中のパックス・アメリカーナはだんだんと終わりを告げ、アメリカと中国という二極、もしくはアメリカと中国、それにドイツが率いるEUという三極に世界の秩序は変化していくのかもしれません。その中で日本はどういうポジションをとって生き延びていくのかという難しい戦略を迫られていくことになります。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2015.05.08(金)
文=佐々木俊尚