「僕も我を忘れるほどの恋愛がしてみたい!」

左から、ベテラン知性派俳優ムン・ソングン、ヒロインのハン・イェリ、パク・ユチョン、主演のキム・ユンソク、そしてシム・ソンボ監督。

 映画の中でドンシクと、朝鮮族密航者の少女ホンメ(ハン・イェリ)は、見つかれば殺されるという極限状況下で愛し合う。初めてのベッドシーンにもさほど緊張しなかったようだが、それよりも感情過多になるのを抑えていたそう。「僕もドンシクのように、我を忘れるほどの恋愛がしてみたいです。ホンメと結ばれたあと、彼女に靴を履かせてあげるシーンはあまりに切なくて、演じながら鳥肌が立ちました。泣きそうになったけれど、必死にこらえていました」。

 駆けつけたファンからも「ベッドシーンがよかった!」と声がかかるほどのユチョンの熱演は、日本での劇場公開時にご確認を(『海にかかる霧』は、2015年4月17日よりTOHOシネマズ新宿にて先行上映、以降、4月24日より全国ロードショー)。

 これからもJYJの活動と並行して映画出演をしていきたいというユチョン。『イルマーレ』のようなラブストーリーもいつかはやってみたいが、体を動かす映画の方があっているのかも、とも語っていた。ちなみに最近観た映画ではマーク・ラファロ主演の『はじまりのうた』がとても気に入ったそう。やっぱり音楽が好きなんだなあ。

 『海にかかる霧』は、2001年に実際にあった海難事故を元にした舞台劇の映画化で、主演は『10人の泥棒たち』『チェイサー』のキム・ユンソク(余談だが『10人の泥棒たち』という邦題は覚えにくい!)。

 昨年春にセウォル号海難事故があったせいか、映画は韓国で大ヒットとまではいかなかったが、朝鮮族の密航問題や(いまも密航者の多くが、中国に住む朝鮮族の人々)、経済格差など、韓国の抱える問題を描きつつ、心理スリラーとしてきっちりと娯楽性も保っている秀作だ。霧の中から現れるのは人間の心という名の怪物で、ポン・ジュノが『殺人の追憶』以来追いかけているテーマと共通する。

今年の映画祭ではセウォル号沈没事件のドキュメンタリー『ダイビング・ベル』も上映されたが、これを阻止しようとした釜山市長が、映画祭委員長に辞任を迫る事態に発展。映画人たちは委員長をサポートしている。

 夜の上映後には、キム・ユンソク、ムン・ソングン、ハン・イェリ、シム・ソンボ監督と共に、質疑応答を行ったユチョンは、昼のオープン・トークと違って、すっきりした顔になっていたのが印象的。そこでも「素晴らしい共演者、スタッフに恵まれて、とても光栄でした。僕の演技人生の基本となる作品です」と語った。

 オープン・トークは無料で、特に整理券が出されたりしないので、前夜から砂浜で陣取っているグループもいたほど。もし映画祭の上映チケットがとれなくても、こうした無料イベントがいくつもあるので、釜山旅行がてら映画祭に行ってみることをおすすめしたい。釜山は温泉あり、おいしい海産物もあり、と日本人にはぴったりの観光地で、港町らしい人情にも溢れているので、ぜひ。

石津文子 (いしづあやこ)
a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。ときおり作家の長嶋有氏と共にトークイベント『映画ホニャララ はみだし有とアヤ』を開催している。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。俳号は栗人。「もっと笑いを!」がモットー。