vol.9_CHANEL

誕生から93年。時を超え、女性に寄り添う永遠の香り

シャネルが世に出した最初の香りであり、今もトップセラーを誇る「N°5」。80種以上の天然香料と合成香料アルデヒドが織りなす複雑な香りを堪能するなら香水をぜひ一度試してみて。手作業による「ポードリュシャージュ」という密封技術が施され、この封を開けられるのは香水を手に入れた者だけの“特権”だ。シャネル N°5 香水(左)15ml 21,000円、(上)7.5ml 14,000円、(右)30ml 35,000円/シャネル

 クリスマスシーズンに向けてコスメ界が賑やかになる時期。毎年楽しみにしているのが「シャネル N°5」のキャンペーンだ。今年はスーパーモデルのジゼルが新しいミューズとなり、広告ヴィジュアルやフィルムが公開されるなどニュースがいっぱいで盛り上がること間違いなし。CREA読者も「N°5」の名を知らない人はいないだろう。シャネルが創った最初の香り。誕生から90年以上も経っているのに今なおトップセラーのひとつ。たくさんの香りが生まれ、消えていく中でこんな香り他にはないと思う。N°5はなぜ愛され続けるのか? 今回の“ブラ魂”ポイントはここ! 歴史を辿りながらその秘密を探ってみよう。

 N°5が誕生したのは1921年。マドモアゼル シャネルのこの言葉から始まった。“私は誰にも真似のできない、他の何にも似ていない香りを創りたい。女性そのものを感じさせる、女性のための香りを”。初代調香師となるエルネスト ボーはこの願いを受け、南仏グラース産のジャスミンや“ローズ ドゥ メ”のエッセンスなど80種以上の天然香料にアルデヒド(合成香料)を組み合わせて前代未聞の香りを生み出す。それは何の香りとも例えることができない花々のブーケ。纏う女性一人ひとりの肌と溶け合いながら個性を際立たせるミステリアスな香り。これこそがシャネル初となる香水、N°5である。

「当時の香水はすずらんやローズといったひとつの花のエッセンスからなる具象的な香りが主流でした。ボトルはデコラティブでネーミングも装飾的で難解なものが多く、マドモアゼルは憤りを感じていたようです。それに対するアンチテーゼがN°5だったんですね。香りはこの上なく複雑でボトルや名前はごくシンプルに。マドモアゼルがファッションでやってきたことの延長にこの香りがあったのだと思います」と話すのはシャネル 香水・化粧品本部PRマネージャー、増川美和さん。

装飾を排した直線的なボトルはヴァンドーム広場の形を表している

 ファッションの世界では、窮屈なシルエットに縛られていた女性の体を美しく解放したと称されるシャネル。その大胆かつ自由な発想は香りの世界でも新風を巻き起こす。装飾を排した直線的なボトルはマドモアゼルが愛したパリのヴァンドーム広場の形を表したもの。ネーミングの由来は?

「諸説があるのですが、彼女に提示された試作品の5番目だったというのがよく言われています。数字の5はマドモアゼル シャネルのラッキーナンバーですし、彼女は獅子座の生まれなので5番目の星座という説も」(増川さん)

 1924年にN°5 オードゥ トワレット誕生。こちらもエルネスト ボーが手掛けたものでサンダルウッドが際立つ軽やかな香りが評判に。「N°5」の名は世界中へ広まっていく。時代を代表する女優やモデルをミューズとした広告が制作され、その最初のミューズはマドモアゼル本人だった。また、第2次世界大戦後のパリではGIたちがN°5をお土産としてアメリカに持ち帰ろうとブティックに連日行列ができたという伝説も。マリリン モンローが「ベッドで身につけるのはシャネルN°5を数滴だけ」と語ったのは有名な話。そして、その魅力は3代目(現在の)調香師、ジャック ポルジュによってさらに開花する。

 1986年に発表されたN°5 オードゥ パルファムはヴァニラの甘さが加わった現代的なN°5といえる香り。2008年には、“透明感”というアプローチからN°5 オー プルミエールを完成。まるで水彩画を思わせる清らかで表情豊かな香りは若い女性たちの間で話題となり、N°5の新しいイメージを創り出した。

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2014.12.04(木)
文=吉田昌佐美
撮影=塚田直寛

CREA 2014年12月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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