時代とフィットしながら守り続けるN°5クオリティ
ひとつひとつの香りを改めて試してみると香りの印象が全然違う。
「基本的なエッセンスは変わっていません。それぞれがN°5の輪郭を持ちながら新たな解釈がプラスされている。ジャック ポルジュは調香師の仕事は画家のようだと言っています。ひとつのモチーフや素材に対してそのつど向き合うことでまた違う世界が生まれると」(増川さん)
もちろん、それが叶うのは良い原材料があるからで香料のこだわりは半端じゃない。
「ジャスミンと“ローズ ドゥ メ”はグラースにある専用農園と契約し、土から手をかけて独自の抽出法で採り出したものを使用しています。他の香料原料もそれぞれ産地を厳選して。すべての製造過程において管理しているのが、シャネルの強みですね。N°5は初めて大胆にアルデヒドを使った香りとしても知られていますが、ジャック ポルジュによるとアルデヒドは天然香料を調和させる香りだと。苺にレモンをかけるとふわっと苺の香りが立つように、軽やかさや深みといった独特のニュアンスが加わると言っています」(増川さん)
実は“静か”にやり続けられていたこともある。香水のボトルデザインが少しずつ変わっていたのをご存じだろうか。
「時代が変われば周りにある物の形や雰囲気も変わってきますから。そんな中でも常にマッチするようにボトルのカッティングに手を加えたり、ラベルの大きさが少し変わったり。マイナーなデザインチェンジが行われています」(増川さん)
なんだか「N°5」の存在がぐっと身近になってきた感じ。日本の女性は香りのおしゃれには消極的な人がまだ多くて、こういう素敵な話を聞いていくともっと楽しんでほしいなってホント思う。
「香りは人に対する発信だけでなく、自分に対してのケアでもあるんですよね。特別なものとして考えずにファッションの仕上げとして気軽に取り入れてほしいですね。N°5は“複雑さ”が魅力の香りですから、どなたがつけてもその方のN°5の香りになる。そういう意味でも楽しめる香りだと思います」(増川さん)
その日の気分や洋服の雰囲気でも印象が変わるし、遊べる香り。あなたもいろいろ試して“My N°5”見つけてみては?
増川美和さん
シャネル 香水・化粧品本部 PRマネージャー。フレグランス マーケティングを担当し、ココ マドモアゼル、チャンスなどのローンチを経験。シャネルのフレグランスの熱烈なファンを自称する。
吉田昌佐美
キャリア35年の美容ジャーナリスト。新旧の名品やブランドの歴史を知りつくし、研究員からの信頼も厚い。CREAで長年にわたりナビゲーターを務めた連載「ブランド力調査隊」が今回からパワーアップ。確かな分析力と取材力でブランドの「強み」を解説します。コスメ好きはCREA WEB連載「吉田昌佐美の“早出し”ビューティ裏ばなし」も要チェック。
Column
吉田昌佐美のブランド魂発見!
鋭い視点からの取材力と情報の蓄積に定評を持つキャリア35年の重鎮美容ジャーナリストが、コスメブランドそれぞれの「強み」を解説。さまざまな逸品ビューティアイテムに込められた「魂」に迫ります。
2014.12.04(木)
文=吉田昌佐美
撮影=塚田直寛