“こめかみから入れる”のは、プロの料理人の隠し包丁

“チークはこめかみから入れるもの”。そう決めつけている人が少なくない。確かに、そういう提案は大昔からあって、今もたまに同じような表現を耳にする。だから無理もないのだけれど、プロが“こめかみから入れる”のは、プロの料理人の隠し包丁みたいなもので、プロ技としてのメイク表現。素人がへたに真似ると逆に失敗する。しかも“こめかみチーク”自体、大昔からあるとても古い表現だからこそ、老けて見える上に、見た目に不自然だからどうしても厚塗りに見えるのだ。
チークはあくまで顔の自然な紅潮を再現する行為。こめかみが赤いなんて、やっぱりおかしい。そもそも筆使用のカラーメイクでは、最初に筆を置いたところがいちばん濃くなるから、こめかみから……は、それだけでタブー。自然な仕上がりを狙うなら頰(ほお)の中心をいちばん濃く、グラデーションで丸く入れるのが、血の気チークの揺るがぬ正解と覚えていて。

2011.09.27(火)
text:Kaoru Saito
photographs:Yasuo Yoshizawa(still life)
CREA 2011年10月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。