ヴェネチアでは二人で汗がドバドバ

 にっぽんの伝統はどのように継承されていくのか。歌舞伎界で最高峰の存在である「市川宗家」をドキュメンタリーで迫った映画『襲名』が9月25日に公開される。市川團十郎の襲名において初めての延期や、十三代目市川團十郎白猿(48)と長男・勸玄こと八代目市川新之助(13)が挑んだ親子共演の舞台など、鬼才・三池崇史監督が滅多にカメラが入ることのない舞台裏まで映像に収めた。完成された映画を前に團十郎、新之助がそろってCREA WEBへ特別に語ってくれた。


苦しいことは本来、好きじゃないんですよ

――市川團十郎という名跡を2020年に襲名される予定でしたが、コロナ禍の緊急事態により2022年に延期されました。今回は、その経過を追う貴重な記録にもなる映画です。

團十郎 歌舞伎にはいろいろな記録の残し方があります。昔なら写真、古い映像では九代目團十郎と五代目尾上菊五郎さんの「紅葉狩」があります。今回は媒体として映画という形を選びました。襲名を映画にするのは歌舞伎の歴史でも初めてだと思います。團十郎襲名はコロナ禍で2年半延び、本来なら撮影は1年ちょっとの予定が3年と数カ月かかりました。

 倅の場合は7歳での襲名予定が9歳になり、その間に随分と変わりました。襲名が決まった時の彼の映像と、大阪松竹座で親子で踊った「連獅子」(2024年10月)の映像を見比べると成長が感じられ、コロナには苦しめられましたが、こういう形で記録に残せて良かったと思います。私自身は日々進化しているつもりなので、自分の舞台を映像で見るのはあまり得意ではありません。「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」も「團菊祭(だんぎくさい)五月大歌舞伎」(2026年5月)と襲名時(2022年12月)を比べると当時の演技には反省点も多く、自分の至らなさを強く感じました。

新之助 僕はお父さんの襲名と同じ時期に、新之助として初舞台を踏みました。映画では感動するところもたくさんあり、当時と比べていまの自分に成長を感じられることもあります。そんな振り返りもできるので、映画化されてよかったなと思いました。 

――襲名前の成田山新勝寺での修行も映し出されています。

團十郎 成田山新勝寺とは初代團十郎からのご縁があり、成田屋という屋号にも繋がっています。父(十二代團十郎)は團十郎を襲名する折に新勝寺にこもって修行をし、團十郎という名跡に向き合いました。私も父のお蔭で若い時から修行にまいりました。護摩の修行だけでも1回につき8時間かかる。それを日に3回やらないといけないというくらい大変なのです。三池監督はその様子も撮ってくださいました。

――映画の中で、「苦しいことがすぐに閃いて、それをやってしまう」とおっしゃっていました。あえて苦しいことを選ばれるのでしょうか。

團十郎 そんなことを言っていましたか(笑)。今年は7月の歌舞伎座公演が終わってからプライベートでずっと海外に行っていましたし、その後は山にも出かけました。苦しいことは本来、好きじゃないですよ。緩急をつけて日々、過ごしています。

 今年の9月初めにはヴェネチアに行きました。第83回ヴェネチア国際映画祭の「Cinema&Arts Awards」に出品が決まったからです。この映画が海外をはじめ、多くの方に紹介したいという想いで選んでくださったと思うと、ただそれだけで大変光栄でした。帰国して家で娘とどうなったか話していたら、事務所から「Cinema&Arts Awards」最優秀作品賞を受賞したと連絡があったんです。 この映画を作るにあたっては制作する方々にとってコロナ禍も含めて4年という長い時間を耐え、困難もたくさんありました。ただ、私自身はいつもと変わりなく舞台にあがり、撮影されていてもカメラに向かってセリフをしゃべるわけでもありません。ですから、この受賞は自分のことというよりも、制作に携わっていただいた方々すべてにおめでとうと伝えたい気持ちでいっぱいです。

――新之助さんはいかがですか。

新之助 初めて出演した映画でヴェネチアへ行くことができて、みなさまに囲まれながら映画を見られたのが、本当にうれしくて。拍手の時も笑顔にあふれて、心からうれしいなって思いましたが……一方で、自分は映画を見ながらすごく恥ずかしくもありました。お父さんと顔を見合わせながら、「本当に恥ずかしかったね」と言い合いながら、お互いに汗がドバドバで(笑)。でも、海外の方々が日本の文化や伝統などにすごく興味があるのが伝わってきました。

 そんなことを感じたヴェネチアだったので、いろいろ体験できる海外にはもっと行きたいです。スイスやフィンランド、アイスランド、シンガポール、中国、エジプトにも行きたいな。ネットでよくあちこちの景色もチェックしています。スイスは風景がきれいで本当に好きなのでいつかぜひ行ってみたいです。

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