東京都庭園美術館ならではの「特別な鑑賞方法」
昭和初期に施行した「旧朝香宮邸」を継承する同館ならではの、作品の味わい方にも注目したい。朝香宮夫妻が愛したアール・デコスタイルの邸宅を活用した展示室は、他館とは違った視点を与えてくれる。
「アール・デコ建築の内装と、器の造形との響き合いをぜひ楽しんでいただきたいです。例えば、カーテン、マントルピース、ラジエーターカバーのデザインや、竣工当時からのオリジナルの天井照明などは、それぞれの部屋で異なります。どの部屋にどの作品を展示すると双方が魅力的に見えるのか、悩みながら展示を準備しました。
さらに、ルーシー・リーの作品は、どこから見ても美しい形のものが多いので、できるだけ色々な角度から見ていただきたいと思い、展示ケースの配置を工夫するほか、ポスターなどに使用したメインビジュアルの作品には、360度鑑賞できる円形の展示台を用意しました」
例えば、元々「小客室」として活用されていた展示室では、木々が描かれた緑の壁画に合わせ、ヨーゼフ・ホフマンと上野リチ・リックスによる緑色の《リキュールグラス》や、それと同時代に制作された花の形を思わせるルーシー・リーの《鉢》を展示することで、草花が青々と茂る森のような空間がもたらされている。
大ぶりな植物文様の壁のレリーフと、マントルピース上の朱色のアーチが描かれた壁画が印象的な「大食堂」があった展示室には、壁面の花柄や壁画の朱色とリンクするような、ユッタ・ジカの《ティー・コーヒー セット》を展示。室内の模様や色彩が、作品と呼応しあっているような空間を堪能できる。
さらに「合の間」の魚や貝の模様が施されたラジエーターカバーの前には、同じく海洋生物をあしらった、バーナード・リーチの素朴かつ重厚な《蛸図大皿》を展示。リー作のマンガン釉の鉢が展示された「殿下寝室」の天井には、鉢にリンクするような円錐の照明が吊り下がっていたりと、器自体はもちろん、作品と内装のハーモニーを味わうことができる。
アール・デコの内装と共鳴し合い、また新たな表情をもたらしていくリーの器の数々。同展を通して見えてくる、彼女の作品の愉しみ方とは何なのだろうか。
「ルーシー・リーの器はシンプルで綺麗なデザインですが、機械生産とは異なる温かみや人間らしさが随所に垣間見えます。例えば、わずかに左右非対称なシルエットや、掻き落とし技法による線文様のゆらぎからは、作家による制作過程を想像させられる。また、ブロンズ釉が自然に垂れる様子から生まれた装飾や、溶岩釉の特性から生み出されたざらざらとした質感からは、作家の意思でコントロールできない即興的な要素を、リーがどのように扱ってデザインに取り入れようとしたのかについて考えさせられ、味わい深く感じられます。
また器は鑑賞の対象であると同時に、日常で使える美でもありますので、自分だったらどのように使いたいかを想像しながら鑑賞していただくのも楽しいと思います」
企画展:ルーシー・リー展―東西をつなぐ優美のうつわ―
開催場所:東京都庭園美術館
会期:2026年7月4日(土) ~ 9月13日(日)
休館日:月曜日
開催時間:10時 ~ 18時 (入館は閉館の30分前まで)
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/lucie-rie/
