韓国映画人には日本映画の「何も起こらない話」が人気

――『ばけばけ』のときは、岡部さんがドラマの中にいることで「筆の進みも変わった」とインタビューで話されてました。

 岡部ならこういう風に言えるだろうなという信頼があるんです。ホン・サンス作品でも、毎回出ている常連の俳優さんがいて、作品ごとにちょっとずつ役が変わっている。

――今回のお父さんを演じたクォン・ヘヒョさんがそういう感じですね。日本ではドラマ『冬のソナタ』のキム次長役で有名になりましたが、ホン・サンス作品だと雰囲気が全然違います。

 西森さんは、「何も起こらない話」を研究してるんですよね。

――研究というほどではないんですが、15年くらい前から、韓国の映画人の方々がこぞって「日本の映画は何も起こらないところがいい」と言われていたのがきっかけで気になるようになりました。特に、映画を大学で専攻していたような俳優さんが、皆さんそう言われるんです。

 どの辺の日本映画を指しているんですか?

――古くは、岩井俊二さん、最近は三宅唱さんや濱口竜介さん、是枝裕和さんという感じじゃないでしょうか。三木聡監督の『亀は意外と速く泳ぐ』も韓国ですごく人気があるんです。だから、ふじきさんの作風も受ける気がするんですよね。

 韓国では、「何も起こらない」映画はそんなに多くないんですか?

――ホン・サンス監督くらいと言っても過言ではないかもしれないですね。

 特殊な方なんですね、ホン・サンス監督は。国際映画祭では評価されてますけど、韓国での人気はどのくらいなんですか?

――全世界にそんなにたくさんではないけれど確実なファンがいて、その人たちに向けて作っているから成り立っていると聞いたことがありますね。

 だとすると、日本にはファンが多いんですかね。ミニシアターで「月刊ホン・サンス」特集ができるなんて、ちょっとどうかしてるのかもしれない(笑)。

――そうかもしれないですね(笑)。最後に、ふじきさんがお薦めしたいホン・サンス作品を教えてください。

 はじめて観た『浜辺の女』を薦めていたんですけど、もう20年くらい前の作品なので。最近だったら、進路が決まらず何者にもなれない青年を描いた『イントロダクション』(2022)とか、男ふたりが酒を飲みながら港町での恋の思い出を語り合う『ハハハ』(2010)とか観てみてください。ホン・サンス作品にはほかにも、『パラサイト 半地下の家族』(2019)に出ていた故イ・ソンギュンさんとか、今では有名になった俳優さんがたくさん出ています。ホン・サンス監督の映画を「私も好きです」っていう人にあんまり出会ったことがなかったので、今日はこうしてお話しできて嬉しかったです。ありがとうございました。

『自然は君に何を語るのか』

詩人のドンファは、恋人ジュニを家まで送り届けた際、玄関先で彼女の父と鉢合わせ、思いがけずジュニの家族と一日を過ごすことになる。初めはぎくしゃくしていたが、ジュニの家族に家や近所を案内され会話を重ねるうちに少しずつ距離を縮めていく。やがて一家が揃う夕食の席で、勧められるまま酒を口にするうち、緊張から酔いが回り、次第に気まずい雰囲気が漂いはじめる――。
脚本・監督・製作・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
出演:ハ・ソングク、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、カン・ソイ、パク・ミソ
配給:ミモザフィルムズ ©2025 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.

全国順次公開中。5月23日(土)より下高井戸シネマにて上映
https://mimosafilms.com/gekkan-hongsangsoo/