主人公・ドンファに見た、30代の職無し“自称作家”時代

――映画『自然は君に何を語るのか』にはたくさんのキャラクターが登場しましたが、ふじきさんはどの人物が気になりましたか?

 やっぱり主人公のドンファですね。

――ドンファは、詩人だけれどもそれだけでは生計が立てられず、週末は結婚式場でウェディングの動画を撮ったりしている。でも父親が弁護士で実家がお金持ちだということを、なにかと恋人ジュニの姉から突っ込まれてるというキャラクターなんですよね。そして詩人だから、自然を見ては詩にしようとしている。

 ドンファを見ていると、昔の自分を見ているような気がしました。ドンファは30代なんですよね。僕も30歳手前で作家になりたいと思って会社を辞めて、でも4~5年くらいは“自称作家”状態だったんです。ドンファが自分のことを詩人だと言ってるのとすごい似てるんですよね。

 昼間から何もしないでふらふらして、友達の実家に泊まると、友達の親から「この人、明日仕事ないのかな」とか思われながら夜ご飯を食べて。でもお金がないから、「夜ごはん食べられてラッキー」なんて思って……。あの情けなさは、ドンファそのものでした。

――ドンファもふじきさんも「立ち尽くして」いたんですね。それは『ばけばけ』で岡部たかしさんが演じたヒロインの父・司之介にも通じるものがあるのでは? 元松江藩の上級武士だけれども、明治維新後の時代の変化についていけない“立ち尽くしている人”を、ふじきさんは魅力的に描きましたよね。

 でもまあ司之介は、武士として一時代を築いた後ですし、家族が一応いますからね。ドンファも30代の僕も“何もない人”じゃないですか。ドンファのことを「あいつはダメだ」って恋人のお父さんが言うのはわかります。当時の僕も「あいつはなんなんだ」って言われていたと思います。

 もうひとつ思い出しました。後輩の実家に泊まって、翌朝、起きると朝ごはんが用意されているんですけど、起きたのがもう昼の11時くらいでいたたまれない……っていうこともありましたね。ドンファが朝になったら逃げるように帰るじゃないですか。あのシーンはすごい笑っちゃうけど、30代の僕だったら、ちょっと見られなかったなって思いますね。

――ホン・サンス監督は演じる人からインスピレーションを受けて書いているところもあるんじゃないかと思います。ふじきさんも、役者さんにあて書きをすることはあるんですか?

 書けたらすばらしいなと思うんですけど、設定から先に考えちゃうほうですね。ドキュメンタリーじゃないけど、演じる人自身の何かを借りて書くと、ホン・サンスのように多作になっていけるんじゃないかとも思いますね。

――ドラマの場合は、原作があったり、プロデューサー側からの企画提案があったりということも多いですよね。

 ドラマは、そういうことも多いですね。

――ふじきさんが、自分で作品を一から作るときは、どんなテーマで書きたいですか?

 演劇ではすでにやっているんですけど、最近は50代半ばの男のせつなさに興味がありますね。『ばけばけ』を書き始める前に、岡部(たかし)と岩谷(健司)と演劇をやったんですけど(※テアトロコントでの2023年9月の公演)、そのときに題材にしたのが、通勤や通学、買い物のときによく見かける、けど名前も素性も知らない人の話だったんです。

 「あの人、またスーパーにいる」「横断歩道にいる」っていう人いるじゃないですか。何を書こうか悩んでいたときに、街をふらふらしていたら、僕の中の“そういう人”とすれ違ったことがあって。結局声をかけなかったんですけど、まったく名前も知らない人の素性がちょっとずつわかってくるという話を書いてみたんです。“ドラクエ”みたいなもんで、自分の生活圏内にいるはずの人なんだけど、旅行先でばったり出くわして初めて声をかけることになる。前回は40分くらいの話にしたので、今度はもうちょっと長く書けたらいいなと思ったりしています。

――その脚本を書いたときは、演じた岩谷さんや岡部さんからインスピレーションを受けて書くことはなかったんですか?

 キャラクターに重ねたりはあんまりしなかったですね。でも、彼らに「そういう人いない?」って聞いたら、みんなにもそういう存在がいたみたいなんで、誰もあまり考えたことのない「あるある」を重ねていく感じで、そのときは書きました。

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