日常をそのまま描く強さに打たれて

 コミックの担当編集者・岩坂氏から依頼された時点では、池辺さんはまだ原作を読んでいなかったそうだ。

「読まないうちに決めてしまったので、読んでどう思うかはちょっと心配だったものの、『いや、でも頑張ろう、どんなものでもやれる』と自分を奮い立たせました。ところが実際に読んでみたら、もう私が大好きなものにあふれていたので、一気に気持ちが晴れたというか。

 先ほども申し上げたように、作品づくりに悩んでいた時期だったんですよね。思いつくとそこから流れるように映像が浮かぶというのが私のスタイルだったんですけれど、最近はあまりそうならなくなっていて、意識的に物語をコントロールすることもあったり、重たい気持ちで臨んでいるところもありました。

 それが殿下の本を読んだときに、読者にこう思わせたいとか、こう感じさせたいが一切ない作品で、とても感動したんです。日常を見たまま聞いたまま淡々と綴っていて、その自然発生的な筆運びが魅力的でした。殿下は出会うものすべてを楽しみ、その目が輝いていらっしゃるのがわかる。

 それはもう私の中ではいわば物語というべきもので、ものをつくるとはこういうことだなとあらためて教えていただいたエッセイでした」

 話が決まると、彬子さまが大学や院生時代の建物や思い出の写真などをいろいろ用意してくださり、その写真に、ここにいるのはどういう人物であるかや、「ここは学生が集ったバー」など細かくメモした付箋も貼ってくださっていた。そのお心遣いにも感激した、と池辺さん。

「当時の殿下の写真もたくさん見せていただきました。いちばん感じたのが、笑っていらっしゃる姿の愛らしさですね。ずっとみなさんに見られている立場でありながら、写り具合などは一切意識されていなくて自然。

 いまはインスタ映えだのフォトジェニックだの、カメラの向こうを気にすることも多いと思いますが、殿下はそういうのとは無縁で、起こった出来事のその瞬間、瞬間を全力で生きているようなはつらつとした表情をされているんです。そのパワーたるやと感じたので、その姿をみんなに届けられればいいなと思います」

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