女性皇族として初めて、海外で博士号を取得された彬子女王殿下。そのオックスフォード大学での日々を綴られたエッセイ、『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(PHP文庫)が池辺葵さんによりマンガ化されました。

 コミカライズにあたり、池辺さんはどんなふうに作品と向き合ったのか――全2回のインタビューをお届けします。

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描きたいものを見失っていた…そんな時期に訪れた転機

 皇族の方々。日本人にとっては仰ぎ見るような心理的距離から逃れられない存在である。しかし、彬子女王殿下(以下、彬子さま)のエッセイ『赤と青のガウン オックスフォード留学記』を読むと、ぐっと親しみが湧いてしまう。

 オックスフォード大学は徳仁天皇や、彬子さまの御尊父である寛仁親王(2012年薨去)も留学された皇室とゆかりの深い最高学府であり、彬子さまは寛仁親王から〈「おまえもオックスフォードに行くんだぞ」と繰り返し呪文のように聞かされて〉育った。

 同書は彬子さまが、学習院大学在学中の1年間の短期留学と、2004年9月から5年間在籍したオックスフォード大学マートン・コレッジでの日々を振り返ったエッセイだ。そのエッセイが、マンガ界の名匠、池辺葵さんによりコミカライズされ、早くもこの夢のコラボレーションに注目が集まっている。

 自分の大切なものを慈しみながら、ささやかに生きている――そんな女性たちを描いたら天下一品の池辺さん。だが、これまで発表してきたのはみなオリジナル作品で、原作があるものを手がけたことはない。なぜこの仕事を引き受けたのだろう。その動機から、うかがってみた。

「このお話をいただいたのが2024年なんですね。正直に言うと、そのころは若干『もう描きたいものがないな』という気分だったんです。だから、それでもこれからもし描くとしたら、日本の文化やものづくりにフォーカスした作品がいいなというのがあって、『ブランチライン』(祥伝社)の担当さんにも相談したりしていました。

 彬子女王殿下のお名前とお顔は存じ上げている、というくらいだったのですが、皇室は自分の中ではすごく大切な存在だとは感じています。

 皇室やオックスフォード大学が備えている伝統と、自分が描きたい世界が近いなとまず思いました。私は何をするにも直感で生きているのですが、何より『これは私に来た話だ』という感覚があったんです。すごくおこがましいですけれど、私でよろしければ最大限やってみようと。即決でした」

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