第二子出産を経て、舞台『リア王』に臨む石原さとみさん。シェイクスピアの悲劇に向き合いながら、彼女が惹かれたのは、「悪役」という言葉だけでは捉えきれない人間の複雑さでした。先日のインタビューでは、本作に挑む理由と、いまの率直な思いを語ってくれました。

「愛は、強すぎても歪む」石原さとみが『リア王』で見つめ直した人間のリアル〈舞台『リア王』で産後復帰〉
「夜泣きと闘いながら…」石原さとみが明かす育児と舞台の両立


「鋼太郎さんの誘いは二つ返事で引き受けると決めている」

 5年ぶりとなる舞台復帰作。なぜシェイクスピアの四大悲劇の一つ『リア王』という大作を選んだのか。その問いに、石原さんは一切の迷いなく答えた。

「それは鋼太郎さんからお声がけいただいたから。それにつきます」

 演出も手掛ける吉田鋼太郎への絶対的な信頼。過去の共演で培われた絆が、産後復帰という大きな挑戦の羅針盤となったことは想像に難くない。

 もちろん、この道程が平坦でないことは覚悟の上だった。妊娠前にオファーを受けた時点で、産後に復帰するという未来の時間軸ははっきりと見えていた。

 「頭では覚悟を決めていたつもりでも、現実は思うようにいかなくて。産後の体力の落ち方は想像を絶するものでした」と静かに振り返る石原さん。追い打ちをかけるのが、赤ちゃんの夜泣きによる慢性的な睡眠不足だった。

「数時間おきに起こされる生活で、まとまった睡眠が取れないんです。だから、産後は記憶力も曖昧になってきちゃって……。膨大なシェイクスピアのセリフを、今の私が本当に覚えられるのかなって」

 その笑顔で語る裏には、トップ女優としてのプライドと、一人の母親としての切実な不安がせめぎ合っていた。

「夜泣きと闘いながら…」石原さとみが明かす育児と舞台の両立

育児の中で得られる学びも大切にしたい

 今回石原さんが挑むのは、リア王の長女・ゴネリル。父を裏切る冷酷な娘として、一般的には"悪役"のレッテルを貼られがちな人物だ。だが、石原さんの解釈は異なる。

 「ゴネリルを単純な悪役だと、私は思ったことがないんです。彼女の行動の根源にあるのは、父親に愛されたいという渇望。どこか愛に飢え、承認を必死に求めているように見える」と、役柄の深層心理を読み解く。

 父の歓心を買う有名な場面も、「あれは父を騙す嘘ではない。『お父様が欲しい言葉を、私は知っています。だから、それを与えますよ』という、娘なりの必死の愛の表現だったのかもしれない」。純粋な悪意ではなく、満たされない愛が歪んだ悲劇。そのように役を捉える彼女の眼差しは鋭い。

 出産と育児という経験は、仕事への向き合い方にも確かな変化をもたらしたそう。

 「以前よりも、役柄や物語そのものに強く魅力を感じたり、心が動かされたりするものに挑戦したい、という気持ちが明確になりました。限られた時間だからこそ、魂を燃やせるものに身を投じたい。自分が自分に飽きないことも、表現を続ける上ですごく大切」と石原さんは語る。

 夜泣きと闘い、心身ともに万全とは言えない状況下であっても、自らの心の声に正直であろうとするその姿勢。それこそが、困難な役であるゴネリルに挑む彼女の原動力となっているのだろう。

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「愛は、強すぎても歪む」石原さとみが『リア王』で見つめ直した人間のリアル〈舞台『リア王』で産後復帰〉
「夜泣きと闘いながら…」石原さとみが明かす育児と舞台の両立

石原さとみ(いしはら・さとみ)

1986年生まれ、東京都出身。第27回ホリプロタレントスカウトキャラバン「ピュアガール2002」でグランプリを受賞しデビュー。2003年映画『わたしのグランパ』で日本アカデミー賞などを受賞し、話題に。多くの話題作に出演。近年の出演作に映画『ミッシング』や、『ラストマイル』などがある。

彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd Vol.3『リア王』

演出:長塚圭史
主演:吉田鋼太郎、石原さとみ、松岡依都美、矢崎広、吉田美月喜、山内圭哉、山西 惇、藤原竜也 ほか
期間:2026年5月5日(祝)~5月24日(日)
場所:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
https://horipro-stage.jp/stage/kinglear2026