この記事の連載
蒼井 優さんインタビュー【前篇】
蒼井 優さんインタビュー【後篇】
映画『ふつうの子ども』で呉 美保監督と初めてタッグを組んだ蒼井 優さん。本作で演じたのは、ある出来事をきっかけに揺れ動く母・恵子の姿。出産後初となる母親役をどう受け止めたのか、そして、子どもとの日々の中で芽生えた心の変化とは。
「ふつうってなんだろう?」と改めて考えさせられる作品

――呉 美保監督との初タッグとなる本作『ふつうの子ども』。最初に台本を読まれたとき、どんな印象を受けましたか?
『ふつうの子ども』って、印象的なタイトルですよね。「ふつう」って何だろう? と自然に考えを促されるようで、この時代にあえてこの言葉を選んだ監督の覚悟を感じました。お腹の底に力が入った作品だな、と。
台本を読んでみると、いわゆる「社会派」と呼ばれる重厚なドラマではないのに、観る人に「一緒に考えてみない?」と手を差し伸べるような、素晴らしい物語だと感じました。
――ご出産後、母親役を演じるのは今回が初めてだそうですね。実際にご自身が母親になったことで、役への向き合い方に何か変化はありましたか? また、共感できた部分や、むしろ自分とは距離を感じた点があれば教えてください。

息子役を演じた嶋田鉄太君は、現場ではいつも鉄太君らしくいてくれたので、子どもを相手に演技している感覚はなかったんです。大人と演技しているのとなんら変わりない。だからというのもありますし、10歳の男の子を育てた経験はないので、私自身が母親になったことは、演技にあまり関係なかったように思います。

距離を感じたといえば、私からは出てこないだろうなってセリフはありました。物語終盤、問題を起こした子らの親たちが集められて話す場面がありますよね。そこで恵子が強めの捨て台詞をピシャッと放つんですが、私だったらあれは言えない。自分の中にはない言葉なので、どんなトーンで言えばいいのかすごく迷いました。
「子どもの心が豊かでいられるようサポートし続けたい」

――あの場面について、監督には映画『おとなのけんか』を思い出したと感想を伝えられたそうですね。
そうそう。独特の緊張感が似ていませんか。自分の子どもの性格や特徴を正確に捉えるのは、親でさえ簡単ではない――そのもどかしさが、親同士のやりとりに凝縮されていますよね。
――そうですね。あの場面に限らず、物語全体を通して「子どもを産んだからといって、すぐにちゃんとした親になれるわけではない」という現実が丁寧に描かれていたように思います。蒼井さんご自身は、どんな親でありたいと感じていますか?
親たちのエゴで勝手に産んだわけですから、そこに対しての責任はきちんと持ちたいです。子どもの心が豊かでいられるようにあらゆるサポートや提案をしていくのが、マナーだと思っています。
交通ルールなど、社会の決まりごとをちゃんと守るという意識は、出産後にかなり強くなったと思います。もちろん、今までも守ってはいましたが、自分の子どもだけではなく、まわりの子どもたちに見られても問題ない人間でいたいなって。子どもは大人の背中を見て育ちますから、まずは私たちが守ることが大切ですよね。今は、青信号が点滅しているタイミングでも待ちますし、出発しそうな電車に無理に乗るようなこともしません。
――素敵ですね。ほかにも、お子さんが生まれたことで何か心境の変化はありましたか?
これまでは感覚的に済ませていたことも、きちんと調べて向き合うようになりました。「どうしてこれはダメなの?」と聞かれたときに、ちゃんとした知識で答えられるようにしておきたくて。
2025.09.13(土)
文=高田真莉絵
撮影=深野未季
ヘア&メイク=草場妙子
スタイリング=岡本純子