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堀井美香インタビュー後篇
作品を通して「共に考えよう」と、強く訴えていきたい

――今回の作品を観た方にどういうことを感じ取ってほしいと思いますか?
堀井 観る方によって、受け取るものがまったく異なる作品だと考えています。女性として「もっと強く生きなければ」と感じてくださる方がいるかもしれませんし、「このような残酷な場面は現在もまだ存在する」と感じ取る方がいるかもしれません。観る方それぞれの目で感じたことを、持ち帰っていただければと思っています。
深作 ドイツと日本は、同じ敗戦の歴史から始まり、ともに瓦礫の中から復興した国です。しかし、日本はアメリカとの関係が深まり、ドイツは東西に分かれました。まったく異なる歴史を歩んできたわけです。日本の現在の演劇界は、英米の影響を強く受けて感情移入させる作品が主流ですが、逆にかつてナチス政権の恐怖を経験したドイツ演劇は、一歩引いて批評的に考える傾向があります。
私は「役に感情移入するのではなく、観客が参加して考える」という、ブレヒト(ドイツの劇作家)が提唱した異化効果を大切にしたいので、本作も「共に考えよう」ということを強く訴えていきたいです。
今回、私たちは能舞台の上でドイツ演劇を上演しますが、観客席は決して安全圏ではなく、自分たちもまた一緒に参加して考えるつもりで観ていただけたらという気持ちでいます。「みんなで考える」ということも、劇場の重要な役割だと思うのです。
少し硬い話になりましたが、要するに、ドイツ風居酒屋のようなものだと考えています。ドイツ演劇と言っても、私たちは結局日本人ですし、日本人が日本語で日本の観客に届けます。しかし、少し視点を変えると、世界の捉え方は一つではないと分かります。
今、80億の人間がいるとしたら、80億通りの愛とセックスと暴力がある。それを個別のものだと認めることが、この多様性の10年だったはずです。しかし、トランプ政権によって一気にそれが止まってしまいました。改めて、全員が違うのだということを大切に訴え続けていきたいです。
だから観客のみなさんが一つになるのではなく、「みんな、違うのだ」という考えを持っていただきたいです。演出という行為も、時には洗脳になってしまうことがある。だからこそ、観客の方々が一緒に考えられるような雰囲気を作りやすいように努力しています。
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深作組+水戸芸術館 プロデュース公演『フェードラ―炎の中で―』

アテネの王テーセウスの妻フェードラは、女ざかりを過ぎた喪失感に囚われていた。もう一度、人生の喜びと輝きを取り戻したい。そんな願いを胸に抱いていた彼女の前に、ある日突然、長男デモフォーンの未来の花嫁、美しき少女ペルセアが現れる。ペルセアは若く、反抗的な〈魔性の女〉でもある。フェードラはまるで天災や事故に遭遇したかのように、唐突にペルセアを愛してしまう――。痛いほど激しく、炎のように熱烈に。
作:ニノ・ハラティシュヴィリ 翻訳・ドラマトゥルク:大川珠季 演出:深作健太 音楽・演奏:西川裕一
出演:フェードラ 堀井美香、アカマース 市川蒼、デモフォーン 白又敦、ペルセア 佐竹桃華、パノペウス 宮地大介、テーセウス 加藤頼
会場 水戸芸術館 ACM劇場
日時 2025年7月5日(土)・6日(日) 14:00開演(13:30開場)
料金 S席(正面1・2階席)7,500円 A席(脇正面1・2階席)6,500円(全席指定・税込、未就学児入場不可)
水戸芸術館チケット予約センター 電話番号 029-225-3555
https://www.arttowermito.or.jp/ticket/

2025.06.27(金)
文=綿貫大介
撮影=志水隆