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「まっさらであることがすごい」――俳優・堀井美香の才能とは

――深作さんは今、俳優・堀井美香をどのように評価されていますか。

深作 これまでさまざまな新人の方々と仕事をしてきましたが、毎日、新しい俳優の誕生の瞬間を見させていただいています。堀井さん自身、常にゼロであること、まっさらであることを非常に大切にされていると感じます。だからこそ、いつも初心を忘れない。その姿勢が本当に素晴らしいと思います。

 ご自身の朗読の活動を中心にしながら、これからもさまざまなことに挑戦されていくと思います。ただ私自身としては、演劇界にまた一人、大切な俳優が生まれる瞬間を、少しだけお手伝いしたいという気持ちでいます。本当に、すごい才能を持った方だと思います。

――深作さんからの熱烈なオファーを受け、今回が初主演となる堀井さん。役どころについて説明いただけますでしょうか。

堀井 最初に深作さんから伺っていた「人生のゴールが見えている年齢の女性の話であり、息子の花嫁と恋に落ちる話」という説明から、女性が自我を取り戻し、根源的な自分に戻っていく物語なのだと、当初は理解していました。

 フェードラはずっと抑圧されてきた女性なので、「もう少しうまくやればいいのに」、「女王としてきちんと振る舞ってほしい」と思うことも多かったのです(笑)。ですが、読み解いているうちに、そういうことだけではないのだということが、日に日に分かってきました。

 本作はやはり、一度観ただけでは少し読み解くのが難しいほど、いろんな仕掛けが散りばめられています。怒り、抑圧に対する抵抗、願い、祈り……さまざまな思いが非常に強く表れていて、今はそれをしっかり読み解いていく作業をしています。2時間の脚本ですが、一文一文が宝物だということを、毎日実感しています。

――現代に通じる物語でもあると思います。堀井さん自身が現実の社会で感じる生きづらさも、演じる上で活かされているのでしょうか。

堀井 私は今、東京に住んでいますが、周囲には声高に女性の権利について声を上げてくれる友人や、強い女性たちがたくさんいます。しかし、地方へ目を向けると、何らかの社会規範や、旧来型の慣習の中で生きている女性たちもいます。そして、それがおかしいと気づく術もなく、それが当たり前だと思ってしまっている女性も非常に多いのが現実だと思います。

 私の田舎などでもそうですが、社会規範をそのまま受け入れてしまっているようなこともあるようです。その間の溝を埋めるのはとても難しいことですが、気づけている人、元気のある人、少し力があり余っている人が、まだ少し足かせで遅れてしまっている人たちの道をならすパワーがあるのなら、それはぜひやろうね、ということはよく話しています。そのような意識を持ちながら演じているつもりです。

2025.06.27(金)
文=綿貫大介
撮影=志水隆