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 演出家・深作健太さん率いる深作組が贈る〈ドイツ・ヒロイン三部作〉完結編『フェードラ―炎の中で―』が、6月26日(木)から29日(日)に東京・銕仙会能楽研修所、そして7月5日(土)、6日(日)には茨城・水戸芸術館 ACM劇場にて上演されます。

 本作は、ドイツ演劇を中心に活動してきた深作組が、ジョージア出身の作家ニノ・ハラティシュヴィリによるギリシャ神話がベースの戯曲を舞台化。現代社会が抱える問題に切り込みながら、女性たちの情熱的な「愛と性」を鮮烈に描きます。

 前篇となる今回は、初舞台にして主演を務めるフリーアナウンサーの堀井美香さんと演出の深作健太さんに、作品に込められた熱い思いを伺いました。

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女性たちの100年と向き合って――“揺り戻し”の時代に届けたい作品

――これまで三人の女性の人生を通じて、混沌の時代を描いてきた〈ドイツ・ヒロイン三部作〉もいよいよ完結。今作にはどのような想いを込められましたか?

深作 私たちは〈ドイツ・ヒロイン三部作〉を通して、新しい女性の流れ、そして女性たちの100年にわたる愛と性の流れを描いてきたつもりでした。しかし、2025年1月にトランプ大統領が就任し、性の多様性を認めない方針を示しました。

 このように、私たちがこれまで獲得してきた多様性やさまざまなものが今、トランプ氏だけでなく経済格差やそれに伴う分断によって、地球規模で壁として立ちはだかろうとしています。そういった揺り戻しに問いを投げかける作品になっています。

――以前にも共演経験があるお二人。深作さんは前々から堀井さんにオファーをされていたとのことですが、どのような部分に魅力を感じていましたか?

深作 ご覧いただいている通り、非常に優しく美しいのに、どこか天然で、とても面白い方なんです。今回の舞台ではマッサージのシーンがあるのですが、堀井さんに「うっとりと目を閉じてください」とお願いしたら、その後のシーンもずっと目を閉じたままで芝居を続けられて、「あれ、座頭市の役でしたっけ?」みたいな(笑)。すかさず「目を開いてください」と言ったら、「ああ、そうでした」という感じで(笑)。そんなエピソードの一つひとつが、私はとても好きなんです。

 うっかりした部分もありながら、朗読劇の時は素晴らしいですよね。三浦綾子さんの『母』や『泥流地帯』など、意図を持って何を朗読するか選択していく堀井さんの中には、きちんと「戦う部分」があると感じています。私はやはり、戦う人が大好きなのです。TBSでこれからという時に、それをすべて投げ捨てて「沖に出る」という選択をした姿勢も、私は素晴らしいと思います。

 男性中心の大企業の枠組みを飛び出していく堀井さんは、同年代の女性たちの生き方の可能性を広げていると思うので、これからもどんどん最前線に立ってほしいと思います。そんな堀井さんと今回ご一緒できたのは、本当に幸せなことでした。

2025.06.27(金)
文=綿貫大介
撮影=志水隆