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「私は毒が効かない子だったから、マンガに描くことができた」SNSで話題の“看取りコメディ”作者に聞く

 大嫌いだったはずの父が「がん」になった。いつも理不尽に当たり散らしていた暴君は、別人のように大人しくなり、人の手を借りなければ食事も、風呂に入ることもできないほど弱ってしまった。家庭内は平和が訪れ、もう父の顔色を窺う必要もない。それなのに、娘・よえ子の気持ちは晴れるどころか、モヤモヤとした感情が募るばかり……。たどり着いた結論は、「もう一度父を怒らせたい」。

 父はなぜこんなに怒る人だったのか? 父は子どもを愛していなかったのか? そして、とうとう父の過去を知ったよえ子が父を怒らせるためにとった最後の行動とは……? 余命宣告された父と娘の家族再生を描いた『父を怒らせたい』。著者であるおかくーこさんにとって初の単行本であり、自身が父親を看取った経験から生まれた作品だといいます。

【第1話試し読み】大嫌いな毒親の父が癌になって家に平和が訪れた! なのに娘は「父を怒らせたい」と躍起になり…その理由は?

父が怒らなくなってしまったことが「寂しかった」

――『父を怒らせたい』がデビュー作とのことですが、マンガはずっと描いてこられたのでしょうか?

 20歳の頃にイラストレーターを目指していたのですが、当時は今よりも絵柄が怖くて、「この絵だと仕事にするのは難しい」と言われてしまったんです。そのあたりからたくさんマンガを読むようになって、自分でも描き始めました。

――“父親の死”という、ちょっと重いテーマを選ばれたのはなぜでしょう。

 そもそも私には描きたいテーマがあったわけではなくて……。それでしばらく悩んで、これはちょっと無理かもしれない、といったんストップしていた頃に自分の父の病気がわかり、介護が始まりました。

――おかさんのお父様はどんな方でしたか?

 さすがにマンガの中の父・耕太郎のようにものを投げたりはしませんでしたが(笑)、いつ怒るかわからない、まるで時限爆弾のような存在でした。シラフのときは無口なんですが、酔うと怒り出すし、機嫌が悪いときは何をしても怒る。子どもの頃に遊んでもらった記憶もあまりないですね。

 介護が始まるまでは、暮らしの中であった嫌なことをマンガにしてブログにあげていたんですが、ある時から父のことを描けなくなってしまったんです。そのことがずっと心に残っていて、いつか何か、別の形で描けたらと思っていました。そんなときに参加したコミティアでいま連載している「ビッグコミックオリジナル」(小学館)の編集者の方が声をかけてくださって。「描きたいテーマは?」と聞かれたので「父の看取りのことを描きたい」とお話ししました。

――物語はどのようにつくられていったのでしょう?

 はじめはエッセイ風マンガにしようと思っていたのですが、より多くの人に読んでもらうためにはキャラクターを作ったほうがいいだろうということになりました。看取りを大きなテーマにすることはすぐに決まったのですが、そこから先に時間がかかって……。編集さんと話し合いをする中で出てきた、「父が寝たきりになり、怒らなくなったことが寂しかった」という記憶から「父を怒らせる」にたどり着きました。

――主人公のよえ子や母・美代子、そして父に反発して早くに家を出てしまった姉・やよいにモデルはいますか?

 よえ子とやよいはとくにモデルがいるわけではなく、この父に育てられたら……と想像しながらキャラクターを作っていきました。

 でも、よえ子のダメな部分は私に似ていますね。バイトをすぐに辞めてしまうところとか(笑)。美代子も私の母に似ていますね。母も父が亡くなる前から遺品整理をしたり、亡くなった後のリフォームの計画を立てたりしていましたから。

2025.07.04(金)
文=河西みのり
マンガ=おかくーこ