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「昭和の父親」を描いていたつもりが…読者から指摘されて「毒親」と認識した

――“毒親“というキーワードが出てきますが、意識したうえで描かれたのですか?

 私自身は、昭和の父親はそういうもんだ、と思っていたんです。だから父が毒親だという感覚はまったくなくて、マンガがウェブで公開されたときに、コメント欄が「毒親」という言葉でいっぱいになって驚きました。そこから、毒親に関する本を読んでみたら当てはまることばかりで。(笑)

 ただ、毒が効く子ども、効かない子どもがいるのかなと思いましたね。私はそこまで毒が効かなかったというか。

――じゃあ、描きながら気持ちが重くなることもなかったですか?

 そうですね。作品に入り込みすぎると修正ができなくなってしまうので、あえて線を引いています。あと、父が亡くなったことで、自分のなかでそれまでのことが全部“チャラ”になって。嫌なこともたくさんあったのですが、思い浮かびにくくなったんです。

――反発するあまり父と距離をとっていたよえ子が、父親の過去を知るために親族に会いに行くなど、どんどん逞しくなっていく姿が印象的です。

 実際の私は、父が怒っていてもスルーして、向き合おうとしてこなかったんです。私は3人姉妹で、理不尽な父に対して妹だけは歯向かっていたんですが、私と姉は喧嘩をすること自体がいやで……。今になって思えば、父と話し合って、和解することもできたのかもしれないな、という気持ちもあります。その分、よえ子には私ができなかったことをやってもらっている感覚があります。

――読者やご家族からの反響はいかがですか?

 読者の中には親との関係で苦しんでいる方が多くて、お会いした方のほとんどが「うちの親は……」と自分が育った環境などお話をしてくれます。

 母は初めのうち「私は読まない」と言っていて、姉も1話目を読んで「もう読めない」と言っていたのですが、今は読んでくれているようです。父に歯向かい続けた妹だけははじめから「いいね!」とほめてくれていました(笑)。

 私自身は父の“毒”をあまり自覚せずに育ってきましたが、大人になってからも苦しんでいたり、絶対に許せないという人もいれば、赦したいと思っている人……親に対して色々な思いを抱いている方がいることを知り、どの人の気持ちも、否定しないような作品にしたいと思うようになりました。

――お父さんや家族に対する見方に変化はありましたか?

 お父さんもかわいそうだな、と思いましたね。

 毒親に関する本の多くは、子どもの立場から「親が悪い」という書き方をされているけれど、その親もまた、毒親だったりするんです。

 社会的にも、昭和の父親は「一家の大黒柱」と呼ばれ、いろいろなものを背負わされ、愚痴を言えない、弱いところを見せられないような男社会で生きてきた。だから(私の父のような)男性が割と普通にいたと思うのですが、時代が変わって急に「毒親」と呼ばれ……それはそれでかわいそうだな、と。でも、私がある程度年齢を重ねたからこそ、そんな風に思えるようになったのかもしれません。

2025.07.04(金)
文=河西みのり
マンガ=おかくーこ