「ママは間違えるから、必ず自分でもチェックしてね」
――ご自分のお子さんたちには「完璧な母」でいたいと思いませんか?
渡辺 昔から子どもたちに対しては、情けない姿や頼りない姿を堂々と見せてきたので、「完璧な母親像」については、まったく考えたことがありません。
いつだったか、娘が英検を受験する時に車で送っていった時も、私、会場を間違えちゃったんです。受験が終わった娘がものすごく不機嫌で帰ってきたので、理由を聞いたら「ママが会場を間違えた」と……。でも、それは自分で会場確認をしなかった娘にも責任がありますよね。だから「ちょっと待って。確かに会場を間違えたママも悪いけれど、きちんと確認をしなかったあなたも悪い。ママは間違えるし忘れるので、これからはあなたもちゃんと気をつけて。でも、今日はごめんね」と謝りました。
――お子さまに自分の非を認めて謝れる親って素敵ですね。
渡辺 子どもたちには、「強くて間違えない親」ではなく、頼りないところも情けないところも見せていくことが大事だと思っています。だから「ママは間違えるから、必ず自分でもチェックしてね」といつも話しています。
完璧な親でいなきゃいけないと思うと自分でも苦しくなるし、そもそも「完璧な親」なんて私にはできません。それに、私、子どもの前でよく泣いたりもするんですよ。子どもたちから見た私が「強くて完璧な親」である必要はまったくないと思っています。

――「親だからこうあらねばならない」というのは「女性だからこうあるべき」というジェンダー格差にも通じます。
渡辺 私の夫は、古い昭和タイプの人間だったので、結婚した時は「女性がご飯をつくるもの」という価値観を持っていました。でも日々感じていることを伝え合い、ニュースを見て感想を言い合うなど、細かいことを何でも話し合うようにしてきた結果、少しずつ変わってきました。
Chapter2「家族の不機嫌」の「夫婦の不機嫌」でも書いていますが、世の中は毎日変化しています。以前は大丈夫だった発言や振る舞いも、今では許されない、というケースも増えました。いつまでも「男性だからこうあるべき」「女性だからこれをしなくてはいけない」という考え方ではなく、アップデートしていくことが必要だと思います。
――お子さまたちはジェンダー不平等に敏感ですか?
渡辺 そう思います。でも息子がまだ小学生の時、続けてきたラジオの仕事に出かけようとしたら、息子から「ママ、いつまでラジオの仕事するの?ママは家にいてご飯作ってくれればいいのに」と言われたことがあります。きっと、毎週木曜の夜に私がいなくなってしまうのが寂しくて、つい言ってしまったのだと思いますが、これを聞き入れてしまったら、これまで子どもの前で、夫婦で話し合う姿を見せてきたことは何だったんだろう……、という気持ちになりました。
だからその時は、「寂しい気持ちもわかるけれど、ママはこういう仕事をずっとしているし、仕事ができるうちはちゃんとやりたいと思っている。女性が家にいてご飯を作らないといけないというルールはどこにもないし、ご飯は自分で作ってもいい。ママを家にとどめておく権利は誰にもないんだよ」と話して聞かせました。
2025.05.30(金)
ヘアメイク、スタイリング=三上津香沙
文=相澤洋美
写真=今井知佑