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「剛くん、役者とか、こういうものは作り物でしょ。だけど…」

草彅 「剛くん、役者とか、こういうものは作り物でしょ。だけどあなたが今この映画を最後まで見終えて、ちょっと自分が車掌に見えたでしょ。だけどね作り物だから、お客さんにはすぐ見透かされてしまうよ。ちゃんと自分と向き合って生きてなければダメだよ」って、俺の中の健さんに言われたの。

――うわー、それは健さんっぽいですね。草彅さんの頭の中に響いたんですね。

草彅 そう、響いてきたの。つまり、ちょっと本物らしく見えて安心していると、すぐにそうは見えなくなってしまうから、ちゃんと自分と向き合って生きていないとならない。まさに健さんの言葉なんですよ。健さんにも、樋口監督にも感謝。もう感謝しかないですね。

――とてもいいお話をありがとうございます。

草彅 この話、気に入ってるから、さっきも言っちゃったんだけどね(笑)。

「小2ぐらいの精神年齢でお仕事できる」樋口監督への18年越しの想い

――『新幹線大爆破』のリブート主演という依頼があった時、草彅さんは率直にどう思われましたか?

草彅 樋口真嗣監督とは『日本沈没』(2006)でご一緒して以来のお付き合いなんですが、考えてみると僕がずっと連絡を取り合ってる監督さんって、樋口監督だけなんですよね。

 監督はこの18年間、「今度ね、剛くんで作品考えてるからね」って時々連絡くれるんだけど、実際には主役が斎藤工くんだったり、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』ではワンシーンだけの出演だったり、いつも“やるやる詐欺”みたいな感じで、全然やんないじゃんと思ってたの(笑)。で、今回も「剛くん、これはね、すごいんだよ」と連絡が来て、またやるやる詐欺じゃないかと思ったら、台本が届いて今回はマジだってわかった。

 僕は樋口監督が『新幹線大爆破』が大好きなのは以前から知っていたし、しかも高倉健さんの映画だ、っていうのもあるし、めちゃくちゃ嬉しかった。映画やドラマのお仕事はなんでも嬉しいんですけど、樋口監督との18年越しの約束というのが実現して、いつにも増して嬉しかったですね。だから、本当に僕の代表作になっていると思います。

――樋口監督とそんなに色々な企画の話をしていたんですか?

草彅 してましたね。樋口監督って、子供みたいにすぐ思ったことを言うんですよ。「今度は剛くんを熊と戦わせたい!」とか、「あれと戦わせたい」ってよく言う。僕も「監督とだったらやる」って言うけれども、大体そういうのは実現しないんですよ(笑)。

 でも樋口監督は僕の作品をなんかすごく丁寧に見てくれてて、ドラマも映画も、あと舞台も、本当にいつも来てくださるし、監督ご自身が好きな映画とかも僕に薦めてくれるんですよ。色々送ってきてくれるんだけど、その数がもう多すぎて全然観られない(笑)。

――樋口監督とはとても濃い交流をされてきてたんですね。

草彅 そう、謎に濃い。忙しい時は連絡も2ヶ月ぐらい放置してる時もあるんですけど、そういうふうに気を遣わないくらい仲良くしていただいています。僕は役者として監督をちゃんと敬って接しないといけないという気持ちが心のどこかにはあるんですが、(樋口監督には)会って10秒ぐらいでそれを忘れちゃう(笑)。「あれさ、あれさ」「それそれ」なんて話しながら、本当に中2、いや小2ぐらいの精神年齢の状態でお仕事できる、唯一無二の稀有な監督ですね。

 樋口監督が子どもみたいだって言いましたが、それってすごく素晴らしいこと。だけど子どもでは映画は撮れないから、大人の部分もある。僕がそういう顔を知らないだけで、打ち合わせやロケハンとかでは大人になるらしいですよ(笑)。そのバランスがほんとに素晴らしい。すごく信頼しているし、まあ本当にたくさんいろんな監督とお仕事をさせてもらってるんですけど、特別な監督ですね。樋口監督ともう20年っていうのも結構びっくりしますけどね。『日本沈没』を撮っていたのは2005年っていうから、そんなに時が経つのは早いんだなと思って、もう驚いちゃって。柴咲コウさんとのヘリコプターでの別れのシーンとか、日が落ちちゃったら撮れないから監督がすごく焦り出して撮ってる姿を、本当に昨日のように覚えているんです。

草彅剛(くさなぎ・つよし)

1974年7月9日生まれ、埼玉県出身。91年、CDデビュー。俳優として、『黄泉がえり』(塩田明彦監督/03年)、『あなたへ』(降旗康男監督/12年)、NHK大河ドラマ「青天を衝け」(21年)、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」(23~24年)など多数の作品に出演。17年には「新しい地図」を立ち上げ、20年公開の『ミッドナイトスワン』(内田英治監督)では第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀主演男優賞に輝いた。近年の主な作品に、『サバカン SABAKAN』(金沢知樹監督/22年)、『碁盤斬り』(白石和彌監督/24年)など。樋口真嗣監督とは『日本沈没』(06年)でタッグを組み、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』(15年)にも出演している。

Netflix映画『新幹線大爆破』

出演:草彅剛 細田佳央太 のん 要潤 尾野真千子 豊嶋花 黒田大輔 松尾諭 大後寿々花 ・尾上松也 六平直政 ピエール瀧 坂東彌十郎 / 斎藤工
監督:樋口真嗣
原作:東映映画『新幹線大爆破』(監督:佐藤純彌、脚本:小野竜之助/佐藤純彌、1975年作品)
特別協力:東日本旅客鉄道株式会社 株式会社ジェイアール東日本企画
制作プロダクション:エピスコープ株式会社
製作:Netflix
4月23日(水)より世界独占配信

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2025.04.20(日)
文=石津文子
撮影=深野未季
スタイリスト=栗田泰臣
ヘアメイク=荒川英亮