この記事の連載
草彅剛さんインタビュー #1
草彅剛さんインタビュー #2
草彅剛さんインタビュー #3
しかしこの現場では…「健さんを感じたくても残像も何も見えない!」

――“高倉イズム”が綿々と草彅さんに流れているんですね。今回は特にどういう時に“高倉イズム”を発揮してたんですか?
草彅 それがなかなかなくて。『碁盤斬り』(2024)の時はね、健さんが降りてきてくれてたんですよ!
――観ていても、そんな感じがしました。
草彅 あれは東映京都撮影所での撮影だったから。健さんが銀幕スターの時代、毎日あそこで寝ずに撮っていたような場所なので、残像が見えるっていうか。
あの映画(『碁盤斬り』)も大変だったの。朝リハーサルしてから、キャメラ回さずお昼になっちゃうから、待ちすぎて、やることなくて、着物で刀を差していて座れないからずっと立ってるわけ。その間、撮影所の俳優会館を見ると、なんか健さんがこちらに向かって歩いてくるような残像が見えるの。ほんとなんだよ。高倉健さんは座らないから、だから僕も座らなかった。
おこがましいけど、『碁盤斬り』は映画を観てもちょっと自分の中ではさ、寡黙な役だったし、高倉健さんを感じてやった感じが出てるなと思って、めちゃめちゃ気に入ってるわけですよ。でも、『新幹線大爆破』の現場では、電車の中で健さんを感じようと思っても一向に降りてこなくて。残像も何も見えなくて、どこにもいないわけ。多分原作では、健さんが新幹線に乗ってないからなんだよ(笑)。

――『鉄道員』(1999)の健さんも降りてきてくれなかったですか?
草彅 降りてきてくれないの! だから、途中から“高倉イズム”ではなく、自分の力で“高市イズム”を作らないといけない、と思って演じていました。
車掌さんの役って難しいんですよ。新幹線を運転するシーンがないから緊迫感を出しにくいし、『碁盤斬り』の侍みたいに、最後に我慢して我慢して爆発する、というそれこそわかりやすい高倉イズムもない。
何でそんなに難しいかというと、この人(高市)のバックボーンがわかりにくいんですよね。樋口監督も色々考えたらしいんだけど、高市の私生活とかをわかりやすく見せられないんですって。
車掌さんは業務中は携帯電話とか持てないから、命が危ない時に携帯の息子の写真を見る、とかそういうわかりやすことが出来ない。そしてお客様に対しては冷静でいないといけないから、感情をあまり出せないし、なんか“手足を縛られて芝居してる”ようなところがあったんです。
でも完成した『新幹線大爆破』を観たら、高倉健さんがいたの。いたの、いたの! なんか側にいてくれたんだなと思って。色々試行錯誤しても健さんの姿が僕には見えなかったから、僕は高市イズムで上書きしたんだけど、それが良かったみたい。「あんまり俺に頼るんじゃねえぞ」っていう、健さんならではの突き放しておきながら側にいてくれる感じがしたんですよ。
――どんなところでそれを強く感じました?
草彅 最後の高市のアップのところとか。俺の中で、健さんの声が聞こえたの。聞きたい?
――それは聞きたいです!どんなことを言ってたんですか?
2025.04.20(日)
文=石津文子
撮影=深野未季
スタイリスト=栗田泰臣
ヘアメイク=荒川英亮