マウスオープンもトレーニング

 パンダの血圧のデータは少なく、とりわけ若いパンダのデータは世界的にも少ないのが現状です。3歳のパンダ2頭の血圧を測定した今回の取り組みについて、上野動物園は「将来的に健康診断の基礎を築くうえで、非常に重要な役割を果たします。シャオシャオとレイレイから得られたデータが、世界各国で飼育されているパンダや中国の野生パンダの健康管理に貢献していくことを期待しています」と述べています。

 その後、2024年12月にレントゲン撮影、2025年1月に超音波(エコー)検査のためのトレーニングを実施。双子は必要な動きを一通りできるようになりました。こうした撮影や検査もパンダの健康状態を正確に把握するために大切です。

 2月下旬時点では、口を開けた状態で維持する「マウスオープン」のトレーニング中。マウスオープンができれば、人間はパンダの歯の摩耗状態や口腔内の異常を確認しやすくなります。パンダは固い竹を食べるので、一般的に年齢を重ねるにつれ、歯が摩耗してしまいます。そこで「若いうちからトレーニングをして、歯の状態を確認できるようにしておきます。たまに歯に竹が挟まることがあり、それをとったこともあります」(同)。

時々のけぞるような動きも

 また、シャオシャオが使っていた屋外のエリアは、レイレイよりも狭かったのですが、3月11日(火)から広いエリアでの公開が始まりました。ここはリーリーが使っていたエリア。シャオシャオは休園日にこのエリアで過ごす練習を重ね、職員はシャオシャオに合わせて施設を改修し、ついに公開となりました。シャオシャオは早速、木に登ったり、やぐらの上でお昼寝したりと、のびのび過ごしているようです。

 一方で、シャオシャオは以前から、大きくのけぞるような動きを時々していました。さらにレイレイも同様の行動をしているのを筆者は2025年2月以降に2回、目にしました。上野動物園は、いずれも常同行動と認識しています。

 レイレイは「2024年12月から採食意欲が上がっていますが、一方で竹の選り好みも強くなっており、あまり量を食べずに歩き回る時間が増えています。このことが、常同行動の原因の一つと考えています」(同)とのことです。

 都心にあり、飼育環境が限られる上野動物園。パンダが快適に健やかに暮らせるように、環境エンリッチメントや血圧測定などに挑みながら健康管理を進めています。

中川 美帆 (なかがわ みほ)

パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(12カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo

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2025.03.20(木)
文=中川美帆