古代エジプトの死生観に触れられるエリアも

 照明が落とされ、厳かな雰囲気が漂うFinal Stage「死後の世界の門をたたけ!」の会場。人や動物のミイラをはじめ、葬儀のための道具、副葬品などが展示された空間には、現存最古の葬送文書であるとされている『ピラミッド・テキスト』を読み上げる声が響き渡ります。

 そもそもなぜ、ミイラが作られるようになったのでしょうか。

 古代エジプトでは、人は死後、来世で復活し、永遠の命を得ることができると信じられていました。遺体が腐敗すると、人間の生命力である「カー」が居場所を失い、死者が再生できなくなると考えられていたため、内臓を取り出し、遺体を乾燥させることで肉体が永遠に残るようにしたのです。

 ただし、女性は死後、一度男性にならないと生まれ変わることができないとされていたため、冥界を司る男性の神オシリスとして表現するのが一般的でした。こちらで展示されている《〈家の女主人〉ウェレトワハセトの棺と内部のカルトナージュ》は、女性の姿のまま描かれた珍しい例だといいます。

 また、死後も現世と同様の生活が続くと信じられていたため、故人が来世でも不自由なく暮らせるよう、墓には生前使用した道具をはじめ、パンやワインといった食料品、衣服、装飾品など多様な副葬品が納められました。

 ミイラを覆っていた包帯や布にも神々の絵が描かれていたり、体内から取り出した臓器を保存するための壺がそれぞれの臓器の守護神がかたどられていたりと、古代エジプト人の故人に対して抱いていた、深い愛情や尊敬のような想いを感じます。

※展示作品はいずれもブルックリン博物館所蔵

2025.02.11(火)
文=河西みのり
撮影=深野未季