変わり続ける街で、いつも新鮮でいるために

 今までは、文芸書、文庫本として分類されていた棚も、大胆に変わっている。多くの本屋さんでは、ハードカバーの文芸書が並ぶ棚とは別に、出版社別さらに著者別に陳列した文庫本の棚を設けるが、この度のリニューアルでは、文芸書と文庫本のすべてをひっくるめて「読み物」として著者名順に並べた。「出版社別に並べる」という概念ももちろんない。

 注目の新刊文芸書だけは隣にその著者の既刊文庫を併売する本屋さんや、文庫本を出版社に関係なく著者名順に並べる本屋さんはときどき見受けられるが、文芸書と文庫本を「読み物」というくくりでまとめるのは斬新だ。客側からすると、本のサイズや出版社名ではなく、どの作家さんの本なのかが重要なのだから、ある意味当然かもしれない。

読み物の棚。文庫もハードカバーも、著者別にまとめられている。

 たとえば、「旅」の棚には、旅のガイドブックや旅エッセイと並んで、土地土地を舞台にした小説も当然のように並ぶ。ファッションの歴史とメイクアップ本、恋愛小説が「自分磨き」のジャンルに並ぶ。同じ本がいろんな切り口でさまざまな場所におかれてもかまわない。目的の本にまっすぐたどり着くのではなくて、探して迷っていたら、思いがけない本に出会ってしまうような売り場だ。

「旅」の棚。森見登美彦さんの京都を舞台にした小説も並ぶ。

「読み物」の棚と「旅」の棚を担当する竹山さんによると、自分の棚に何の本を置くかは、それぞれの担当者の自由だという。他の本屋さんでもついつい、この本を旅の棚に入れたらどうだろう、という目で見てしまうそう。リニューアル後、約1カ月が経ったが、日々試行錯誤を続け、「まだまだ発展途上」と棚づくりへの旺盛な意欲を見せてくれた。

 同じ本でも、場所を変えるだけ、見せ方を変えるだけでも新鮮な発見がある。いつも通っている人が毎日来ても、その都度新しい発見があるような売り場にしたい。完成形はなく、変わり続けること、それを楽しんで続けられることが大切と、竹山さんは言う。

 変わり続けることで常に新しい魅力を発し続ける渋谷という街にあって、変わり続ける本屋、SHIBUYA TSUTAYAから目が離せない。

竹山涼子さん、『ただいまが、聞こえない』とともに。

【CREA WEB読者にオススメ】
 王道純文学もエンターテイメントも、恋愛小説もミステリーも、サスペンスもホラーも、何でも読むという竹山涼子さん、どの本が好きとなかなか言えないというところを、あえて選んでもらった。今注目の作家、坂井希久子さんの『ただいまが、聞こえない』(KADOKAWA)。ネタバレなのでここには書かないが、もう最初の一行で心をわしづかみにされる家族小説だ。

SHIBUYA TSUTAYA
所在地 東京都渋谷区宇田川町21-6
営業時間 10:00~26:00
URL http://shibuya.tsutaya.co.jp/

小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。

Column

週末の旅は本屋さん

新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!

 

2014.05.17(土)
文・撮影=小寺律