美智子さまがご執心だったデッサンとは?

 ――それから何年かしてお父様のデッサンもお求めになられた。

 末盛 私が父にクリスマスの絵本を作りたいから、少年時代のイエスをデッサンで描いてくれと頼んで、何年もたってから実現したことがありました。最初の夫が亡くなって三回忌のミサの時に、父は手ぶらで来られないと思ったんでしょうね。下描きを見せてくれて、「こんなのでいいのかな」と言うから、「そうなの、そうなの。こういうのを描いてほしかったの」と言ったら、それから1週間くらいで1冊分約20点のデッサンを描いてくれました。私は何年も待っていたから、「その気になれば1週間でできるじゃない」と父に言ったんですよ。そうしたら「バカ言え、50年と1週間だ」って言われまして、たしかになと思いました。

 その絵本『ナザレの少年―新約聖書より―』(1986、ジー・シー・プレス)が出来た時、デパートで父の親しい画商が展覧会をしてくれて、そのときから美智子さまは、その表紙になっている「少年・イエス」の絵がお好きで、それをお求めになりたいというお気持ちはビンビン伝わっては来たんですけれど……。

 ――そうでしたか。

 末盛 それが実は父が右手でした最後の仕事だったんです。

 ――病気で倒れる直前の作品なんですね。

 末盛 そういう事情もあるので家族でとても大切にしていたんです。父が亡くなってしばらくしてから、そのデッサンを私がもらうことになって、この家に持ってきて玄関に掛けていました。

 だけど、岩手県立美術館の企画で父の展覧会を各地でやってくださったとき、練馬区立美術館(「舟越保武彫刻展―まなざしの向こうに」2015)に美智子さまがお見えになって、やっぱりあのデッサンが……と。

 ――それはかなりのご執心というか。

 末盛 そうですね。それだったらとお譲りさせていただきました。

※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「美智子さま90歳『愛と犠牲は不可分』」)。全文では、編集者として美智子さまの講演録『橋をかける』を手掛けた時のエピソード皇室とキリスト教の考えの親和性などについて語られています。

※このインタビューは、動画でもご覧いただけます。 【動画】末盛千枝子インタビュー「愛と犠牲は不可分 親友が明かす美智子さまの90年」

文藝春秋2024年12 月号

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2025.01.22(水)
文=末盛千枝子