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「少し疲れていた」ときに始めた農業が、いつの間にかたくさんの従業員が働く会社に

――小林さんが農業を始めたきっかけは?

小林 元々は新潟県で父の友人の田んぼをお手伝いをしたところから始まりました。2014年頃で、自分自身が少し疲れていたころだったんですけど、右も左もわからない私のことをみんながすごく優しく迎えてくれたし、できないことがあっても手取り足取り教えてくれました。

 その後、家族の体調不良をきっかけに、諦めて辞めてしまうのではなく、それでも続けられる持続可能な農業をしたいと思って起業したんです。新潟の皆さんと一緒に農業をして感じた幸せな気分をみんなにお返ししたいと思ったし、これからもおいしいものを食べ続けられる社会であってほしいと思いました。少しずつ、自分の半径5メートルくらいから、じわじわと幸せが広がっていけばいいなって思って続けています。

――昨今、いろんなメディアで「持続可能な社会」について取り上げられることは多いと思うんですけど、小林さんは、一歩具体的なことに踏み込んで取り組んでおられるのかなと思います。

小林 現在の私は、稲作もやってるし、都会のビルの上での農業もやっています。また、農林水産省食料・農業・農村政策審議会食糧部会 臨時委員をさせていただき食や農業に関してお話するラジオのナビゲーターもやってるんですけど、そういうことを通じて何がやりたいかっていうと、「おいしい」を守る仕事をしたいんです。

 おいしいものはお金を買えば手に入ると思っている人も多いと思うんですけど、それって恵まれたことで、決して当たり前ではなと思うんです。だから、そんな風に当たり前に思えることの背景には、「おいしい」って思える心身のウェルビーイングな社会がある。

 そのためにも、障害があってもなくても続けられるバリアフリーな農業を目指したいし、その方々が安定して働ける環境が作りたいと思って会社を続けています。

――そのために、どのような仕組み作りをされていますか?

小林 今、私以外パートアルバイト含め約30名が会社で働いています。農園業務のスタッフには主に子育て世代の女性たちが多く、働きやすいようシフトや体制強化を行っています。私がフロントに立ってはいますが、自分だけではこの会社は成り立ちません。起業までの農業体験から自分の非力さを知り私ひとりでは植えられる苗の数は限られているので、みんなで、会社としてその課題を解決していきたいと考え、アグリカルチャーの子どもになるという意味で、会社の名前を「AGRIKO(アグリコ)」とつけました。

 起業をしてから桜新町、白金と農園を開園し、今年はアート事業の拡大と日々慌ただしく過ごしています。自分の前を歩いている経営の先輩方に聞いても、前に進めば進むほど忙しくなっていくと聞き、まだまだ頑張ることの多さにドキドキしています。日々精進、俳優業も会社経営も頑張りたいと思います。

» 【前篇を読む】「虎に翼」を振り返って…小林涼子「会社経営の経験が、久保田先輩役に活きた」

小林涼子(こばやし・りょうこ)

1989年生まれ、東京都出身。子役としてデビュー後、NHK連続テレビ小説「虎に翼」をはじめ、数多くのドラマや映画などへ出演が続いている。俳優業の傍ら、2014年より農業に携わり、家族の体調不良をきっかけに2021年株式会社AGRIKOを起業。農林水産省「農福連携技術支援者」を取得し、自然環境と人に優しい循環型農福連携ファーム「AGRIKO FARM」の運営、アート事業を展開。さらに報道番組への出演やラジオナビゲーターなどパラレルキャリアで活動の幅を広げている。

Instagram @ryoko_kobayashi_ryoko

株式会社AGRIKO

www.agriko.net/

衣装クレジット

トップス、パンツ(LOVELESS)
www.instagram.com/loveless___official

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2024.11.29(金)
文=西森路代
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=髙 千沙都