桃子 着物じゃないね(笑)。
響子 だから着ないの。すると「せっかく買ったのに」って怒りだす。クレージュの弁当箱型のバッグが流行っていて、欲しかったけどそういうものは絶対買ってくれない。着物は何百万もするのを買うのに。今回の取材は母のファッションがテーマと聞いて、これだけは言いたいと(笑)。
忘れられない「着物の匂い」の思い出
ーー雑誌『美しいキモノ』(1992年夏号)は「私のきものワードローブ―夏の抽斗―」というタイトルで、佐藤さんと愛用の着物を紹介している。着物姿の佐藤さんの写真が5点、他に着物と帯などの写真が10点近く。「以前は原稿を書くときもきものでした」と語っていた。
響子 70歳くらいまでは、座卓で書いていました。冬は着物を何枚も重ねて着ていたから、脱いでいくとはだけた胸元から母の匂いが立ちのぼってくるんです。小さい頃の冬のお風呂の思い出です。
桃子 春と秋には、虫干しするんです。応接間から庭に紐を3本くらい渡して。ちょうど自分の部屋の下なんで、着物の匂いが上がってきて「虫干ししている」ってわかります。
「美しいおばあさん」になるための並々ならぬ努力と気配り
ーー『わが孫育て』に佐藤さんはこう書いている。〈自分が七十を遥かに過ぎてみてわかったことが、「美しいおばあさん」になるには並々ならぬ努力と気配りが必須条件だということである〉。『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』には、〈八十歳を越えているのに、六十代に見えるという(それを自負している)いつも元気イッパイのK子さん〉が出てくる。
響子 お化粧に熱心な同世代には厳しいですね(笑)。母と同世代のお知り合いに「昔モテた」と自ら語る方がいて、おしろいがどんどん厚くなっていったんです。もう亡くなられましたが。
桃子 その人のことは、辛辣だった(笑)。
響子 年齢に抗うより、「構わない」ことに価値を置いているんです。精神力とか精神的な強さとか、そんなことをよく言います。
2024.10.07(月)
文=矢部万紀子