さまざまな女性の在り方を描いたドラマはわたしたちの気分を楽にしてくれる

 寅子は、とにかく、いろんな常識や「当たり前」と思われていることに対して「はて?」と疑問を持ち、黙っていられない。それは彼女が親になっても変わることはない。仕事にまい進するばかりに、娘の気持ちが理解できなかった時期もあったし、恋愛の機微や人が自分に向ける気持ちのニュアンスが掴めず、裁判官の星航一(岡田将生)から結婚したい意志をほのめかされても気付くことができない。しかし、「当たり前」を問う気持ちがあるからこそ、ふたりは法律婚をせず、苗字も変えることなく人生のパートナーとなったのだった。

 「はて?」というのは、見ているとフェミニズムの要素でもあると言えるだろう。その逆は「スンッ」である。「スンッ」とは、理不尽なことがあっても仕方がないとスルーし、何事もなかったようにやり過ごしている様を指しているのだと受け取れる。「はて?」と「スンッ」を描くことで、さまざまな女性の在り方が見えるようになっていた。

 「さまざまな女性の在り方が見えることの重要性」というのも、冒頭で話した栗田さんとのイベントで私が指摘したことである。女性の在り方に、望ましい形があるとされていれば、それにあてはまらないもの、つまり「変わり者」は生きにくい。しかし、女性の生き方が一様ではなくて、みんなどこか「変わり者」なのだから、周囲と同じ人生を送らなくてもいいと思うドラマがあれば、多様な女性を描いているということになるし、そこには世の女性たちの気分を楽にしてくれる面があるだろう。

 女子部の仲間である山田よね(土居志央梨)は、普段からパンツスーツなどの服装を身に着け、言葉遣いにしても他の女学生のような所謂「女性らしい」(と思われているような)ところがない。なんでもはっきりと口にするよねと寅子は、ときに口論になったり、寅子が妊娠を隠していたことが分かった後は、しばらく交流を絶ったこともあるが、なんだかんだとお互いの人生の近くに存在し続けている。よねは「私は男になりたいわけじゃない。女を捨てたかっただけだ。自分が女なのかと問われれば、もはや違う。恋愛云々は、男も女も心底くだらないと思っている人もいる」とも言っている。

 冒頭から「変わり者」と書いてきたが、 『虎に翼』を見ていると、世の中にいる“多数派”ではないと思われている人たちを「変わり者」とひとくくりにすることすら、妥当なのかと思えてくる。

2024.09.27(金)
文=西森路代