働くこと。ヘンなこと。ひとつひとつほぐしていきたい
今月のオススメ本
『英子の森』松田青子
CMのはじっこに表示されている「※写真はイメージです」。あれって何なの? 子ども番組で「おにいさん」呼ばわりされてるムキムキ成人男性。彼って怖くない? 表題作を含め「現代社会が奇妙に思える瞬間」(松田)を元手に想像力を羽ばたかせた全6篇収録の作品集。
松田青子 河出書房新社 1,500円
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「なんで私は今この仕事をしているんだろう、もしかして他の仕事もできたんじゃないかなって思うと、“私には別の人生もあったんじゃないかな?”って可能性が浮かんできますよね」
デビュー作『スタッキング可能』では、働く女の人が抱いている無数の違和感を、小説ならではのサプライズで包み込み、面白おかしく送り届けてくれた松田青子。待望の第二作品集『英子の森』は、よりストレートに、前作から受け継いだテーマを突きつけてくる。働くこととアイデンティティの問題だ。
「働くことを通して、何者かにならないといけないのってしんどいなあと思うんです。ヒロインの英子は、英語の仕事に就きたいのに就けなくて、でも英語を使ってる仕事って言うと周りの印象がいいからしがみついて、他の可能性が見えなくなっている。そういう女性に今までいっぱい出会ってきたんですよ。彼女達のことを、自分の問題も含めていつか書きたいと思っていたんです」
とはいえ、「エピソードを羅列するだけのお仕事カタログにはしたくない」。そこで作家が選んだ方法は、森のイメージを導入することだった。
「人が“私の夢はこれです!”とか“これが好きです!”となっている時って、私は森を感じるんです(笑)。“自分はこの森に住んでいます!”みたいな。森って怖い場所なんだけど、生きていくために必要な拠り所だったりもする。その人の志気が下がったり飽きたりすると、一瞬で枯れてしまうものでもある。そのことを、寓話的ではなく、リアルな現象として表現してみたら、このお話にしっくりきたんです」
森は、奥に分け入ると、別の森と繫がっている。時空を超え、生死をも超えて。
「昔の人のしんどさが知恵として蓄積されずに途切れちゃっていて、今の人達も同じしんどさを繰り返している。探せばヒントはいっぱいあるんですよ。そこの部分をもっと活かさないと、これからどんどんヘンな世界になっちゃうって危機感があるんです」
表題作の他に、5篇を収録。共通点は、現代社会に対して感じるヘンをモチーフにしていることだ。
「普通に生活している中に、ヘンなことっていっぱいあります。それをとり上げて、ひとつひとつほぐしていきたい。読んでくれた人の悩みを解決することはできないかもしれないけど、心をちょっとほぐすことができたらいいなあと思うんです」
松田青子 (まつだあおこ)
作家/翻訳家。1979年兵庫県生まれ。2013年に単行本『スタッキング可能』刊行、第26回三島由紀夫賞などの候補に。訳書に『はじまりのはじまりのはじまりのおわり』(アヴィ著/福音館書店)がある。
Column
BOOKS INTERVIEW 本の本音
純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!
2014.04.05(土)
文=吉田大助
撮影=小原太平