はみ出し続けた結果、夢を形にした異才の半自叙伝

 今月のオススメ本
『はみだす力!』スプツニ子!

著者は、ジェンダーの問題や社会的なタブーに斬り込んだ映像&音楽作品で議論を巻き起こしてきたアーティスト。「スーパーはみだしまくりのライフストーリー」をもとに綴る、生きづらさから脱出するヒント。発表作品の口絵も豊富で、目にも楽しい。
スプツニ子! 宝島社 1,365円
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 現代アートに詳しくない人でも、破竹の勢いのアーティスト、スプツニ子! さんの存在は気になっているはず。

「でもCREAみたいな素敵な人たちが読んでそうな雑誌に扱われる日がくると思ってなかったのは、このふざけた名前で分かりませんか(笑)? もともとバリバリの理系で、男の子とは無縁の青春。モテなさがこじれて角刈りにしていた時期もあった」

 いわゆる非リア充だった頃から、どう考え、どう居場所を作ってきたのか。本書を読んでいて感じるのは、カッコつけないカッコよさだ。はみ出す勇気を持ち、自分の可能性を信じてきた実践者の言葉ゆえ、背中を押されているような気持ちになる。

 なにより強く心に響いてくるのは、自分を信じることの大切さ。

「プロジェクトをやり抜くためには自分を信じるしかないんですよ。本音を言えば、私だって、本気で『絶対に傑作だ!』と確信している一方で、弱気になっちゃダメだと自分で自分を鼓舞しているところもある。ごちゃごちゃです。ただ、小さい頃から、“心残りな生き方”だけは怖れていたように思います。私がロールモデルというつもりはなくて、『私はこう思うんだけど、一緒にがんばらない?』と読者と励まし合えればいいですね」

 実は、バラをまとったカバー写真を撮ったのも、女性向け自己啓発本のコーナーに並べられたいと綴ったのも、食虫植物的なトラップ作戦。女子力磨きのため、とうっかり手に取った読者から「なにこれ!?」とツッコまれるのが本望だ、と語る。

「私自身、『ツッコミがいのある半生だな……』と書きながら思いました。“女たるもの云々”という既存の価値観に縛られた大量生産型女子へのカウンターという意味も込めて書いたので、『私が憧れてたのと全然違うんだけど、こんな生き方もありかー』と思われたらうれしい」

 昨年はメディア露出も増え、

「私にとっては女子力元年とも呼べる年でした。というのも、25歳で日本に帰ってくるまでほぼノーメイクだったし、ヒールもミニスカートも持ってなかったのに、いまは実験としての女子ファッションを楽しんでいます。思うに、私がイケメン好きというのもあるけれど、目の保養になるような男性って、世界を幸せにするなー、思いやりがあるなー、と思って。そう考えると見た目の努力をしてみるのって、世界に対する思いやりなのかな、と!」。

すぷつにこ!
1985年生まれ。2010年、英国王立芸術学院修了。卒業制作が注目を集め、東京都現代美術館での展覧会に出展。13年、マサチューセッツ工科大学助教に就任。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2014.02.27(木)
文=三浦天妙子

CREA 2014年3月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

秘密のパリ

CREA 2014年3月号

賢者33人が明かすとっておき。
秘密のパリ

特別定価720円(税込)