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子役には台本を渡さずに演出を

――奥山監督は子役に台本を渡さずに撮影する演出方法を取っていますが、「何歳くらいから台本を渡す」という線引きはあるんですか?

奥山 年齢による区切りがあるわけではありません。そうした方がいい人と、しない方がいい人が役回り的にもいる気がしています。例えば、タクヤの友人・コウセイ役を演じた潤浩くんは、タクヤを演じた越山敬達くんより年齢が低いけど台本を渡していました。潤浩くんは台本を持っていたからこそ、越山くんのお芝居を見事に引き出してくれました。

 さくらを演じた中西希亜良さんには台本を渡さないだけでなく、なるべく説明もしないで撮影しました。例えば、中西さん演じるさくらが、コーチの荒川と、その恋人・五十嵐が乗る車を見かけるシーンがあるんですけど、そこも何も説明せずに撮影しました。

――それは本人の中で想像してほしいからですか?

奥山 それもありますし、極論になりますが、演じる本人はわからなくてもいいかなと思っているんです。例えば、その時のさくらの気持ちを説明しようとすると、「私じゃない人と一緒にいるのが嫌だ」「自分が助手席に座っていたのに」といったさくらの心の声を伝えることになるのですが、そうすると、どうしたって、その心の声を表現しようとするじゃないですか。それもまた余白を潰してしまう要素の1つになる気がするんです。

 いっそのこと、何もわからずぼーっと見つめている顔の方が、「彼女は一体何を考えているんだろう」って映画を観る人が考えるきっかけになると思うんです。

「台本から逸れても、面白いじゃないか」

――若葉さんは子どもと一緒に撮影する機会はあまりありませんでしたが、現場ではいかがでしたか?

若葉 一緒になることはほとんどなかったですね。荒川と五十嵐が車に乗っているシーンを撮影する時も、さくら演じる中西さんと「初めまして」くらいの挨拶はしましたが、待機場所が違いましたし、緊張しているムードでしたから。「僕がしゃしゃり出るのは違うかな」と思い、大人しくしていました。

――台本を持たない子とお芝居をするのって、とても難しい気がするんですけど、いかがでしょうか。

若葉 僕の場合は、逆に台本を読み込んでお母さんが教えたのかな?みたいなゴリゴリの子役芝居をやられた方が困っちゃうかもしれません(笑)。それは子役に限らず大人の役者でも居ますけど…自分の中で固まっちゃってる人というか「監督、このまま進めていいですか……?」って。現場では、そういうムードがまったくなかったし、中西さんのシーンもそこに佇んで車を眺める姿が、本当に美しくて素晴らしかったです。だから、もし自分が彼ら彼女たちと一緒に演技したとしてもやりにくいと感じることはなかっただろうと思います。

奥山 子どもが台本と違う方向に走り出したら、「戻さなきゃ」って軌道修正をはかる役者さんもいるかもしれません。でも、今回の撮影では、子どもとの共演シーンがない人も含めて「台本から逸れても、それはそれで面白い」と思える人たちが集まって下さった気がします。

2024.09.20(金)
文=ゆきどっぐ
写真=細田忠