この記事の連載

CREA夜ふかしマンガ大賞2024
選考委員31名の愛読書と「マンガを読むときのマイルール」

 この秋、発表された「CREA夜ふかしマンガ大賞2024」。選考委員を務めてくれたのは、小説家、お笑い芸人、ミュージシャン、マンガ家、テレビプロデューサー、ベテラン書店員など、各界を代表するマンガ好きの31名。

 CREA2024年秋号では紹介しきれなかった、選考委員の皆さんのほとばしるマンガ愛を大公開!

 「夜ふかしマンガ大賞に推薦する作品」「人生で思わず夜ふかしして読んだ作品」「マンガを読むときのマイルール」など、マンガ好き必読のアンケートです。


山脇麻生さんが「夜ふかしマンガ大賞に推薦するマンガ」

◆『どくだみの花咲くころ』城戸志保/講談社

 小学5年生の信楽くんはキレやすくクラスでも浮いた存在。一方、優等生の清水くんは運動もできて家は裕福。ある日、図工の時間に盗み見た信楽くんの紙粘土の作品に心を奪われた清水くんは遠くから彼の観察をはじめることに…。

「信楽と清水、小学生男子ふたりの友情未満の物語なんですが、ふたりの関係性の真ん中に創作物があるという設定がエモすぎて……。まわりの空気が読める信楽が最も恐れるのは人から妬まれることなので、予測不能な動きをする清水とは最も相性が悪かろうとあえて距離を取っていたのですが、信楽が作った粘土細工や草人形の魅力に沼落ちしてしまうんですね。そこから変化していくふたりの関係性や、それを見守る大人たちの姿もいいのですが、創作物に突破力を持たせること自体に著者が創作物の可能性を信じている気がしてグッときます」(山脇麻生さん・以下同)

◆『恋とか夢とかてんてんてん』世良田波波/マガジンハウス

「29歳フリーターのカイちゃんが恋に落ち、片思いの彼を追いかけて東京から大阪へ…という物語。SNSを見て一喜一憂し、妄想が止まらないその姿は、無用な衝突を避ける器用でスマートな令和の若者像とは程遠く、滑稽で、切実で、読めばいつか負った胸の傷が疼きます。特に印象に残ったのは、十三大橋を自転車で爆走するシーン。都市夜景の煌めきとスパークする恋心が重なって、根拠のない無敵感に包まれるカイちゃん。多幸感溢れるその見開きと真っすぐな描写が高揚感を伴って細胞に染み渡ります。その一方で、先行きが見えないまま泥沼に突っ込んでいってしまうカイちゃんの姿に人生のやるせなさが滲み、目が離せません」

◆『ザ・キンクス』榎本俊二/講談社

「とにかく連載初回から衝撃を受けました。自由で、なめらかで、面白くて、新鮮な驚きがあって、読後は『いいもの読んだなー』という爽快感すらあって。このマンガ賞の第1回でも榎本さんの『ムーたち』の素晴らしさについて力説させていただきましたが、またこような作品に触れられて幸せです」

人生で思わず夜ふかしして読んでしまったマンガは?

◆『光る風』山上たつひこ/フリースタイル

 舞台は軍事国家と化した近未来の日本。高校生の六高寺弦が翻弄される姿を描いたディストピアSF長編。

「夜ふかしというニュアンスとはちょっと違うかもですが、2008年当時、映画館で『ダークナイト』を観てから友人と飲み食いしつつ感想戦を楽しみ、帰宅後、神経が高ぶっていたこともあって、「マンガ読んでから寝ようかなー」と、ふと積ん読の中から手に取った1冊が、この年復刻された『光る風』でした。世代が違うこともあって、それまで山上さんの作品は『がきデカ』しか読んだことがなかったのですが、この作品がエグるものの大きさ、深さが半端なく、脳が痺れまくって朝まで眠れなくなった日のことは今でも忘れられません」

山脇麻生さんの「マンガを読むときのマイルール」

「主にお風呂に浸かりながら読んでいます。至福のひとときです」

2024.10.05(土)
文=大嶋律子(Giraffe)