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自分が後悔しないよう、自己決定が大事

――卵子凍結は、凍結したら終わりではなく、1年に1回、凍結を更新するかを決めなければなりませんよね。

 ちょうど先日、1回目の更新をしたばかりです。まだ1年なので更新に迷いはなかったですが、お金もかかることですし、今後更新をやめるタイミングについては悩むだろうなとは感じました。

 今は、子どもがほしいと思う日もあれば、自分は人を育てる人間じゃないだろうと思うときもあって、まだ子どもを持ちたいかどうかについても揺らいでいます。そうやって揺らいでいる間は、きっと卵子凍結を続けるんじゃないかな、というのが今の心境です。

――凍結した卵子が必ず妊娠に結びつくとは限らないのも卵子凍結の現実かと思います。そのあたりについては、どのように考えていらっしゃいますか?

 どういった状況であれ、子どもは授かりもの。卵子凍結が妊娠を保証するものではないことを理解しているし、その覚悟で採卵をしています。

 先ほどもお伝えしたように、私の行動基準は、後悔しないために今できることをする。だから将来的にどう着地するかに関わらず、卵子凍結という選択は私のすべきことだったと思っています。

――ここまでお話を伺っていて、今回の選択は小松原さんご自身でされたものだということがよくわかりました。妊娠・出産も含めた体の決定権は自分自身にあるというリプロダクティブ・ヘルス/ライツをまさに体現されていると感じます。

 アスリートとして、自分が後悔しない練習をずっと考えながら選んできたので、自分のことは自分で決めたいという思いは強いですし、環境が自己決定できる自分に育ててくれた面はあると思います。

 ただ、ひとつ思うのは、自分自身ですらこの先子どものいる人生を送りたいのかどうか、と悩んでいるのに、その選択をパートナーと言えども、自分以外の人には委ねられないですよね。後悔したり、誰かのせいにしたりはしたくないから、心のヘルスを保つためにも自己決定はすごく大事だと思っています。

 卵子凍結を決めた時も、パートナーに「卵子凍結をするけど、それは、こういうものだよ」と報告と説明はしたけど、「やっていい?」とは聞いていないです。

――卵子凍結をして、よかったですか?

 私は、よかったです。自分の声を聞くことをしないと決められなかったので、卵子凍結をした後のほうがもっと自分を好きになりました。私にとって卵子凍結は、自分の未来への投資でもあるし、自分自身の喜びにもつながるセルフケアでもあったと感じています。

【インタビュー後篇】「食べたら吐けと言われた時代と比べたら」元五輪代表・小松原美里が語る「アスリートと生理」問題の変化

小松原美里(こまつばら・みさと)

1992年7月28日、岡山県生まれ。フィギュアスケート アイスダンスでイタリア代表として活動後、2016年からティム・コレト(20年に日本国籍取得、日本名は尊)とペアを組み、2018年から全日本選手権4連覇を果たす。2022年の北京オリンピックにアイスダンス代表として出場し、団体戦で銀メダルを獲得。2024年5度目の全日本優勝、四大陸選手権で自己新記録を更新後、4月にペア解消と現役引退を発表した。

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2024.09.14(土)
文=今富夕起
写真=佐藤 亘
ヘア&メイク=Miki Yasumoto