――見事銅メダルを獲得し、その強さを証明しました。最初で最後の五輪となりましたが、現役引退については悩まれましたか。
野口 「もう少し長く続ければよかった」とはまったく思わないですね。むしろ長くやったなって(笑)。ただ、「もっと早くクライミングが五輪競技になっていたら、何回出られたんだろう」とは思います。私が19~20歳くらいの時に出場していたら、絶対金メダルを獲れたのにな、とも。でもそれは本当に巡り合わせで、自国開催の五輪が引退試合になったことは、今でもすごく喜ばしいです。
今は、クライミングの普及活動に集中しようと思っています。ユースの育成もやっていきたいですね。
全国に20か所ぐらいだった施設が今は800ほどに
――ほんの10年ぐらいまで街にクライミング施設がほとんどなかったのに、今は大分見かけるようになりました。
野口 私が夢中に取り組んでいた頃は、全国に20か所ぐらいだったけど今は800施設ほど。東京五輪前後から急速に増えた感じでしたが、でもまだまだ足りない。
クライミングって一般の人が楽しんだり、体を動かしたりするためにはとても適したスポーツなんですよ。自分の体力に合わせて壁を選べますし、自分の体の現在地を知ることができる。脚力に比べて腕の力が弱いとか、左右のバランスが取れていないとか。
わたしは小さなころから木登りが好きで、そこからクライミングにも親しみを持ちました。でも今、都市部の子供たちは木登りも出来ない。子どものスポーツ離れや運動能力低下が指摘されていますが、公園の遊具も少なくなってきているし、学校にはジャングルジムもない。
それに夏場は暑くて外では遊べないけど、スポーツクライミングだったら室内で出来るし、何より楽しい。事実、東京都港区では全ての小学校と幼稚園にスポーツクライミングの一つの「ボルダリング」を設置するそうです。
私はいずれ、野球やサッカーと同じように、クライミングを小中高校で部活動としてやれるようにしたい。そんな日常に溶け込んだスポーツにしたいんです。
2024.08.19(月)
文=吉井 妙子