小浜は日本で初めて“あの動物”が上陸した地

 この大門・小門=蘇洞門と勘違いされがちですが、蘇洞門というのは6キロメートルにわたる海岸線全体を指します。ちなみに、蘇洞門は内外海半島の小浜湾から見て岬を回った裏側(外側)にあることから“外面”(そとも)と呼ばれていたのが、一番の見せ場である大門・小門の洞門の圧倒的存在感から、「蘇洞門」という字があてられるようになったとの説が。

 江戸時代中期~後期の絵巻「紙本著色小浜城下蘇洞門景観図巻(蘇洞門景観図)」には小浜の城下からこの蘇洞門までの景色が色鮮やかに描かれています。その長さ、実に7メートル! 昔から蘇洞門は、小浜の人々やこの港を訪れる人々にとって欠かせない存在だったのでしょう。

 この「蘇洞門めぐり遊覧船」に乗船中に流れるアナウンス、内容が興味深い話ばかり。行きは右手に見える内外海半島、帰りは大島半島にまつわる逸話を紹介してくれます。

 帰り道、大島半島サイドの遠くに見える無人島の蒼島は“蒼島暖地性植物群落”という、日本海側の北陸では見られない暖かい地方の植物で覆われているのだとか。

 ナタオレノキ(鉈が折れるほど固い木らしい)やムサシアブミは、自生の北限だそうです。海流によって種が運ばれ、ここに漂着して繁茂したと思うと、島崎藤村の詩から生まれた童謡『椰子の実』が頭の中に流れます。

 そして、そろそろ小浜湾に到着する頃にアナウンスされたのは、小浜は日本で初めて象が上陸した地であるという話。今からおよそ600年前の1408年、インドネシアのパレンバンの王様が室町幕府の第4代将軍・足利義持に献上しようと、象1頭、孔雀2対、オウム2対などを持ち込んだそう。

 南蛮船から下りてきた、海の向こうから来た見慣れぬ顔つきの人々や巨大な象。背後に山が迫る小さな港町の人々は大騒ぎだったことだろうと想像が膨らみます。

 ちなみにこの象はその後、どうなったか。1カ月かけて上洛し、2年7カ月を京で過ごしたものの、日々の大量の食料調達に困った幕府は朝鮮国王へ貢物として献上。その後、役人を踏み殺して島流しになったそう。数奇な運命の象です。

 蘇洞門の豪快な景色に圧倒されつつ、この土地の歴史や文化も知ることができる蘇洞門めぐり遊覧船。あっという間の60分間です。

蘇洞門

●アクセス 若狭フィッシャーマンズ・ワーフまで、車なら舞鶴若狭自動車道 小浜ICから約3キロ 、所要時間8分。電車の場合はJR敦賀駅からJR小浜線で小浜駅まで約1時間5分、小浜駅から車で約5分、徒歩なら約20分

取材協力
若狭フィッシャーマンズワーフ https://www.wakasa-fishermans.com/sotomo
若狭おばま観光協会 https://wakasa-obama.jp/

古関千恵子(こせき ちえこ)

リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること30年あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/

Column

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2024.08.10(土)
文・撮影=古関千恵子