あの超有名な紀行作品にも登場!?
水島へ渡る拠点となる色浜地区は、60年近く前までは “陸の孤島”と言われていました。当時、買い物や通院のために敦賀へ行くには、船を使わなくてはなりませんでした。水島の瀬渡しは、そんな道ができる以前から行われていたそうです。ちなみに、1974年まで色浜-敦賀間は町営の定期船が運航していました。
色浜地区は車ならあっという間に通り過ぎる小さな集落。実はこの集落にある小さなビーチ「色ヶ浜」は、なんと松尾芭蕉の『おくのほそ道』にも登場しています。
芭蕉は西行法師が『山家集』で歌った “ますほの小貝”(薄桃色の小さな貝)が浜一面に広がっている様子を見に行ってみようと、色ヶ浜へ舟を走らせました。芭蕉の時代ももちろん敦賀と色浜を結ぶ道はなかったので、アクセスは舟です。
弁当や酒の入った竹筒をたずさえ、多くの下人と共に賑やかな道行。追い風にのってすぐに到着した浜は、わずかな漁師の家と侘しげな法華宗の寺(現在の本隆寺)があるのみ。夕暮れの寂しさは特に心に響くものがあった、という内容。
そして芭蕉は二つの句を残しました。
「寂しさや須磨にかちたる浜の秋」
「波の間や小貝にまじる萩の塵」
今、夏ともなると水島を目指して多くの人が集まり、多い日では1,500人とか、2,000人が訪れるとか。けれど、夏が賑やかな分、その余韻がかすかに残る秋の寂しさは情緒に触れるものなのかもしれません。
2024.07.13(土)
文・撮影=古関千恵子