周囲からの静かな反発に危機感を覚えた連中は縁を切り、己の置かれている状況に気付かなかった愚かな者だけが――夕虹を裏切らなかった者達だけが、当主夫妻と共に粛清されたのだ。
その数は、悲しいくらいに少なかったという。
青嵐は見切りをつけながら、それでも、なんとか助けてやりたいと思った、半端者だった。
「夕虹を逃がしてやることは、どうあったって出来なかった。だから、お前だけでも逃がしてやりたいと思って、あんな無理やりな手段を取ったわけだ」
ちょっと息をついてから、青嵐は再び墨子の目を見た。
「お前はね、本当はあの時、夕虹と一緒に殺されるはずだったんだ」
墨子は息を吞んだ。
「……撫子の身代わりにするため、生かされたんじゃなかったのか」
「最終的には、そう判断したんだろうね」
だが、あの時点では違ったのだと青嵐は言う。
もともと、幼い姫をどうするかについては、反当主で団結していた彼らの間でも意見は割れていたらしい。一旦は夕虹の遠縁に当たる家が引き取ることに決まったものの、混乱に乗じて殺してしまえという命令が実際には出ていたのだ。
それを知ったからこそ、青嵐は一旦墨子の身を隠してから、新たな当主となった融に助命を嘆願しようとした。
もし、予定通り軟禁先に逃れることが出来たとしても、この状況ではいつ殺されるか分かったものではない。墨子を本気で守りたいならば、融に許しを得た上で、墨子の存在をすっかり隠してしまう必要があった。
青嵐にとっても、それは命がけの賭けであった。
勘気をこうむれば、きっとその場で、殺されていた。だが幸いなことに、融は、墨子の生死に全く関心がなかった。
――皇后と、南橘家に見つかりさえしなければ、勝手にするがいい。
そう言って新たな戸籍を用意し、青嵐が監視につく条件で、墨子が慶勝院に住むことを許したのだった。
「逃げたばかりの頃は、一言、お前が『自分は南家の姫だ』と言っちまえば、アタシだけでなく、協力してくれた連中も皆殺しになっちまう状況だったからね。こっちも必死だったのさ」
2024.07.04(木)