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塩・胡椒だけじゃなくてハーブもね!

――出演を決める基準は脚本が面白いかどうかですか?

 それもあります。でも、たとえ脚本がよくわからなくても、「若い監督でいま勢いがあるらしい」とか、「〇〇さんが出るらしい」という理由でもスケジュールが空いていればやりたいと思います。だって、僕がわかってないだけで、若い人にとってはものすごく面白い脚本かもしれませんし。

――では、光石さんは、俳優としてどう見られても構わないということですか?

 そうです、そうです。

――監督やスタッフに「(光石 研を)どうぞ自由に料理してください」というスタンス?

 なんでもかんでも塩・胡椒じゃダメよ、ときにはハーブなんかも使いなさいよ! と言うときはあります(笑)。そこまではできない、と言うことも多少はありますけどね。

――俳優は作品の一部にすぎないというお考えで、いわゆる俳優論や演技論をあまり語らないのは、論を語ること自体をカッコ悪いと思われているからではないですか?

 先日も、「俺たち論がないよね!」と木梨憲武さんと盛り上がりました(笑)。

 自分の考えが正しいかわかりませんし、結局、俳優ってナルシシスティックな側面もある職業ですよね。だから、作品全体のことを思って語っているように見えても、突き詰めると自分がよく映りたいだけじゃないか、というふうに傾きかねない。それはすごく嫌なんですよね。

――いまの境地を下の世代に伝えていきたいというお気持ちはありますか?

 それはないです。時代がまるっきり違いますから。賀来賢人くん、柄本時生くん、岡田准一さんなど、いまや俳優さんがプロデュースもなさっている。若い人たちには若い人たちのやり方があると思っています。

 若い人たちが、こういうガラパゴスのようなおじさんをつかまえて、「この人(作品のことを)よくわかってないけど、そこに座らせとけ」と撮ってみたら、作品が面白くなるというようなこともあるかもしれないから、大いに利用してもらいたいですね。

2024.07.06(土)
文=黒瀬朋子
撮影=榎本麻美
ヘアメイク=大島千穂