自分に合う本を探すコツとは?

 現実の自分とは違うシチュエーションで出てくるセリフだけど、どう受け止めるかっていう解釈の仕方は読み手の自由。そこが読書の良いところです。どんなふうに受け止めたって全然問題はないんですよ。だって、実際にその言葉が自分を支えてくれた事は確かなのだから。創作の世界の言葉が、自分に響くこともあります。

 そういうことがあって、この本は私にとって大事な一冊になりました。当時、苦しんでいたから、よけいに心にしみたっていうこともあります。高1で大阪から東京へ出てきてホームシックにもなっていたし、仕事がうまくいかないとか、学校も転校したばかりでなじめていないわけだし、そういう状況で、もうだめだと追い詰められたときだったから。大人になってから思うけど、本当にそういうつらいときだからこそ、本って心にしみるんだな、と感じています。心にたくさん傷があったり穴があったりする方が、言葉ってちゃんと引っ掛かってくれる。人生って、悩みとかストレスがないときってないんです。何も悩みのない状態に皆あこがれるけど、悩みやストレスはきっと永遠にあり続けます。

 

『万葉と沙羅』では、古本屋でバイトする万葉くんが読書が苦手な沙羅ちゃんに本を選ぶコツを教えてたりしますけど、自分に合う本を探すっていうのは、それってある意味「勘」なんですよね。その本のイラストがいいなぁでも良いと思うし、全体的な雰囲気、帯の文句とか、なんでもいいんです。自分が引っ掛かるものがあるっていうのがたぶん大事で。普段からアンテナを張ってないと、なかなか引っ掛かんないんですよね。だから、「なにか読もう」と思って選ぶというところから、まさに読書は始まっています。読書ってすごく能動的なものなんです。受け取るばっかりではなくて、自分から入っていかないとあまりキャッチ出来ないんです。で、キャッチする所はたぶん読む人によってそれぞれ違っている。みんな一人一人違うわけだから、たとえ同じ本を読んでも響くところが違って当たり前で、正解も間違いも何もないんですよ。それぞれ感じたことが、全部正しいんです。

2024.06.15(土)
文=「文春文庫」編集部