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肌の色を変えるほどの演技力

―みなさんには、〈目指す俳優像〉はありますか?

髙橋 アル・パチーノは映画も好きですが、ある舞台の話を聞いて、「その域まで行きたい」と思いました。右側に暖炉がある設定で、椅子に座って9分の長台詞を言ってから立ち上がったときに、アル・パチーノの右側だけ赤くなっていたらしいです。

坂東 え? どういうこと?

髙橋 暖炉がないのに、演技で肌の色を変えたらしい。

坂東&清水 すげえ〜!!

高橋 何かにお湯が入っている設定で、そこに手を入れる芝居をしたら肌が赤くなるとか、その次元まで行ってみたい。コップが空なのに、飲んでいる音が聞こえるとか。そういうことができる俳優になりたいです。

坂東 超人だ。

清水 僕は海外の俳優さんだとエディー・レッドメインさんの役作りが丁寧で好きです。

坂東 幼少期というか、映画を見始めたときはジョニー・デップの作品をいろいろ見ました。『シザーハンズ』(1991年/ティム・バートン監督)や、レオナルド・ディカプリオと共演した『ギルバート・グレイプ』(1994年/ラッセ・ハルストレム監督)も最高です。

――〈映画〉という表現の場所について、特別な想いはありますか?

髙橋 所属している鈍牛倶楽部のことを僕は映画に強い事務所だと思っているので、「映画が求めている芝居」を自然に勉強できているんじゃないかと思っています。

清水 僕は「お芝居っていいな」と初めて思ったのが、映画を見たときだったと思います。

髙橋 わかる。俺もそうだった。

清水 それが他の表現じゃなくて、映画だったというのはやっぱり大きいです。映画のお仕事でボコボコにされてきたので(苦笑)、だから好きなんですよね。

坂東 僕はテレビを18歳ぐらいまで見せてもらえなくて、中学3年生から唯一許されていた娯楽が週に1本の映画だったんです。インターネット、携帯、テレビ、漫画などを見ない生活だったので、映画の世界から受ける刺激が半端じゃなくて!

髙橋 劇薬?

坂東 まさにそれ。脳みそ溶けちゃうんじゃないかっていうぐらいの感覚があったから、当時見た映画を今でも鮮明に覚えています。自分が今生きているリアルな世界が本物なのか、さっき見た映画の世界が本物なのか、区別がつかなくなるぐらい没頭していました。

髙橋 それ、すごいな。

坂東 本当にはまった映画だと、その余韻を消したくないから次の週の映画を見られないんです。僕のいろんな感受性を別角度から形成してくれたのが映画だったのかなと思います。今はあのピュアな感覚で映画を観られないのがすごく悲しいですけど。

清水 映画が人格形成に入り込んできている。

坂東 完全に。信じちゃってるもん。ハリー・ポッターの杖を自分で作って、「魔法が出る」って信じて振り回してた。

髙橋 出るっしょ?

坂東 出ないよ(笑)。

2024.05.25(土)
文=須永貴子
撮影=榎本麻美