この記事の連載

 児童養護施設で暮らす2人の恋を描いた『零れるよるに』(講談社)。漫画家・有賀リエさんは、児童養護施設に対してどんな思いを抱くのか。漫画タイトルやキャラクターの名前に込めた思いも伺いました。

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「預けてくれてありがとう」の真意

――取材を重ねる中で、児童養護施設に対して印象が変わった部分はありますか?

有賀 正直に言うと、取材前は児童養護施設という名前しか知らない状態で、あまりポジティブなイメージを持っていませんでした。ある施設長さんは「望んで施設へ来た子は誰もいない」とお話されていましたから、ポジティブなイメージを抱けなかったことはある意味、仕方なかったのかもしれません。

 でも当事者や施設の方にお話を伺うと、ポジティブな部分があるのだなと感じます。「実生活でひどい仕打ちを受けるくらいなら、預けてくれてよかった」という当事者の思いと、「私たちに子どもを預けてくれてありがとう」というケアワーカーの思いが重なるんですよ。

子どもが社会に出て得る賃金を狙う親が……

――読者からの反応で印象的だったことはありますか?

有賀 今のところ、当事者の方々からは「リアルで感情移入してしまう」「施設にいた頃が懐かしくなった」「漫画やドラマで児童養護施設が出てくると『おおげさだな』って思うこともあったけど、こんな感じだった」と感想をいただきます。ほっとしますね。それ以外の方からは、児童養護施設を身近に感じたと言ってもらえてうれしいです。

 中には、「亡き姉の子が父親の育児放棄で児童養護施設に入っている」とSNSで感想をいただいたこともあります。『零れるよるに』では、天雀(てんじゃく)という男の子が施設を退所する頃に、彼の父親がコンタクトを取ってきて「一緒に暮らそう」と言う場面があるんです。でも、天雀のお金が目的なんですよね。感想をくださった方は、「その場面を読んだらぞっとした」って。「もし父親が甥たちに会いに来たらどうしよう。できる限り自分も子どもたちを気にかけてあげたい」とコメントされていました。

――子どもたちにとって、親という存在がどれだけ大きいかがわかる場面でした。

有賀 あれは現実にもよくある話で、退所が近くなると子どもが貯金したお金や、社会に出て得る賃金を目的に、接触してくる親が多いそうなんです。

 どれだけひどい親でも「一緒に暮らそう」と言われると、子どもは気持ちが揺れて拒めないんですよね。そういう部分では、愛情の求め方が普通に暮らしている人より強い感じがします。一般家庭で育つと、親の愛情について深く考える機会はあまりないと思うんですけど、施設にいる子たちは、そういうことをずっと考えてきたんだろうなと思います。

2024.05.31(金)
文=ゆきどっぐ