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必要以上にエピソードを盛らない“漫画道”

――有賀先生は『パーフェクトワールド』や『工場夜景』といった社会問題をテーマとした漫画が話題ですが、もともとそういう漫画が描きたかったんですか?

有賀 もとはラブコメを描こうと思っていたんですよね。最初に連載した恋愛漫画『オールトの雲から』はまさにラブコメ作品で、私はノリノリで描いていたけど、評判があまりよくなくて打ち切りになりました。

 その頃に、当時の編集長から「有賀さんは、恋愛とは別に何か題材があった方がいいのでは」と障害をテーマにした恋愛漫画の提案を受けて『パーフェクトワールド』に取り組んだんです。掲載紙の『Kiss』(講談社)では障害をテーマにした作品に度々取り組んでいて、これまでに聴覚障害を描いた『君の手がささやいている』や、男女の性別が判断しにくい体に生まれた『IS(アイエス) ~男でも女でもない性~』を掲載してきていた実績がありましたから。

 それでやってみたら、いろんな人に取材をして漫画に落とし込むやり方が、自分に案外あっていたんですよね。

――有賀先生の漫画は当事者の方からも「現実に近い心理描写がされている」と好評ですが、取材方法などに秘密があるんでしょうか?

有賀 展開に応じて必要以上にエピソードを盛らないことを大切にしてきた、というのはあるかもしれません。「こういう風にしたら話が盛り上がる」というイメージが最初に出来上がる時もあるんですけど、取材して現実と違うようであれば、そちらは書かないようにしています。

2024.05.31(金)
文=ゆきどっぐ